81は、エルブジで修行された永島シェフが小笠原伯爵邸を経て要町にオープンした創作料理屋。ミシュラン1ツ星。ずっとずっと気になる存在ではあったのですが、池袋は私の生活圏から大幅に外れた地の果てであり、また、食べログの写真を見る限りエルブジ厨な雰囲気があったので、なんとなく後回しにしていたのですね。
なのですが、向こうからコチラにやって来てくれるのであれば、ハイ喜んで。
コートヤード広尾という、官舎をリノベーションしたマンションの1室が当店。18時と21時の2部制。「レストランという概念を超えた舞台」を標榜し、「第1回公演」「第2回公演」と呼んだりしているのは軽く中二病。
開演前は1階のウェイティングスペース(別の店?)で待つ。時間になると順番に2階の真っ黒な小部屋にご案内。ウェルカムドリンクを頂きながら先払い。食べ物と飲み物が込みで先払いって明朗会計でいいですよね。財布を気にせず気持ち良く飲める。
支払いを済ませるとダイニングに案内されます。コの字型テーブルに12席。手元すら見辛い程の暗さにクラブミュージックが鳴り響く。写真は低照度モードで撮ったため何となく写ってますが、実際はもっともっと真っ暗です。
ちなみにウェルカムドリンクはフランチャコルタ。少なくなればガンガンに追加で注いでくれるので、実質飲み放題。このスタイルは私の最も得意とするところである。下戸にとっては地獄の一夜となるであろう。
劇場または映画をシャレてか、最初にポップコーンが供されます。なのですが、これがコンビニで売ってるような普通の塩味で全然美味しくなかった。これは致命傷。こういうシャレが美味しくないと、ただの滑った料理となってしまう。
開演。スポットライトが点され、支配人より挨拶。LEONからそのまま飛び出て来たようなチョイ悪オヤジ。真っ暗な部屋は死をイメージとか、テーブルは御影石で作られていて墓石をイメージとか何とか言ってましたがようわからんかった。
ソムリエを始めとするスタッフも色気のある男女ばかり。81というキャラクターを徹底的に構築するための人選にぬかりなし。
シェフ登場。このチャラさ、パーフェクト。両腕タトゥ、ヒゲ、ロン毛、ピアス、黒のコックコート。EXILEにうっかり紛れ込んでいても暫くは気づかないクオリティ。
さらに口調がジャングルポケットの斉藤慎二と双璧をなすほどクドい。ここまで振り切った立ち振る舞いは見事としか言いようがありません。低く良く通る声に扇情的な台詞回しは舞台役者そのもの。少しでも恥じらいが感じられれば途端にウソ臭く映るのでしょうが、全く照れることなくハッタリを言い切る姿勢。ミスターパーフェクト。脇を固めるスタッフたちも、軍隊のように統率された一糸乱れぬドラマティックな立ち振る舞いで美しい。
さて、劇場型のお食事会の始まり始まり。まずは秋、すなわち枯れ葉をイメージしたお皿。生ハムとジャガイモとグリッシーニ。お察しの通り、特に美味しくはない。なのですが、一皿一皿にあわせて選曲したり、焚き火の香りを部屋中に満たしたりと、五感をフルに刺激する斬新な食体験。
枯れ葉、ならびにその周辺の土をイメージしたスープ。ポルチーニのエキスに醤油。賢明な読者であればご理解頂けるとは存じますが、はっきり言って不味い。まあ、タパスモラキュラーバーとベクトルは同じという意味では想定の範囲内。
秋の味覚ということで、上海蟹。うーん、普通。冷凍のワタリガニのほうが旨味に溢れて良かったりして。
続く泡はドンペリニョンの06。ちょっと前にナリサワで05を飲んだばかりなので、05のほうがコクがあって好きだなあ、とか生意気なコメントしちゃったりして。だがしかし当店はおかわりOK。わずかな味の違いよりも量が優先されるのである。てゆーかこんなのポコポコ開けて原価大丈夫?普通に当店の経営状態が心配になりました。
フォアグラのチョコレート包み。フォアとチョコが上手に融合。ただしドンペリニョンとマッチするかというと、どうでしょう?ドンペリ厨であれば間違いなく喜ぶ演出だと思いますが、移転したばかりのこの時期に当店を訪れるゲストは食にうるさい人ばかりであり、今更「ドンペリ+フォアグラ」という構図に尻尾を振ることは無いと思うんだけどなあ。
「カルボナーラの再構築」という名のスペシャリテ。カダイフの上に有精卵が置かれ、トリュフがまぶされた鳥の巣状態。
卵を割ると香りが爆発。白トリュフのオイルを注射器で注入しているとのこと。器の底にはチーズ主体のコクのあるソースがたっぷり。間違いの無い組み合わせで、文句なし。
一方で、スッポンのスープは風味に乏しくイマイチでした。順序、逆じゃない?あんなチーズでろでろな皿の後に、こんな繊細な一品はどだい無理無理。
日本酒「貴」を用いたカクテル。柚子の風味が日本酒独特の臭みを上手にマスキングしている一方で、日本酒特有の甘味は見事に引き出しており、素晴らしい一杯でした。というか3杯ぐらい飲みました。
先ほどの試験管に入ったスープを用いたリゾット。5種のキノコが使用されており、複雑な味わいで結構好き。スープ単体だと不味かったのに不思議なもんですな。量もたっぷりで申し分ありません。
白は、、、失念しました。品種すらも思い出せない。特徴に乏しく水のように接してしまったのかもしれません。
サーモン。「左から食べよ」との指示。左から右へ徐々に脂と旨味が強くなるように設計されているとのこと。ソースは柿。なのですが、説明が長い割に退屈な味でした。まずくはないけれど、高級レストランで食べる料理でもない。
イクラと梨。こちらもイクラの味そのものが薄い上、梨の水分が希釈の追い討ち。がっかりだ。
メインはシャラン鴨。赤身の火入れは悪くないのですが、皮と脂身がゴムのように硬く、気持ちよく味わうことができませんでした。付け合せをコーヒーの香りで工夫したりと、チャレンジングな姿勢は評価したいのですが、いかんせん美味しくないのである。
赤ワインはレバノンから。シラー、カベルネ、フラン、メルロが25%づつというセパージュ。美味しゅうございます。たぶんそんなに高いものではないと思うのですが、発掘してきたソムリエ氏に拍手。
シェリーとヴィオニエのカクテル。うーん、こちらはどうでしょう。互いの特徴が溶け合ってしまい凡庸な一杯となってしまっている。
デザートはチョコとチーズケーキ。チョコは甘さが控えめで軽やか。歯ごたえもあり良かった。チーズケーキは印象なし。ローズマリーは意味不明。
バリスタが最高のタイミングで飲むことができるよう、ぴったりに焙煎!!!したらしいのですが、別に普通のコーヒーでした。ウチのアパートのロビーの自由に飲んでいいコーヒーと大差なし。
小菓子も特筆すべき点はありません。当店は甘味が全然ダメですね。味はともかく、独創性も何もない。
カーテンコールよろしく拍手でスタッフ全員をお迎え。ゲストの前に並び〆の挨拶。
食後はゆっくりとくつろぎながらシェフやスタッフと言葉を交わす、と思いきや、若干のさっさと帰ってくれ感があります。手元の時計を見ると開始からちょうど100分。そう、思ったよりも皿数が少なく短時間に終わります。胃袋と肝臓にはまだまだ空きスペースあり。もうちょっと食べたかったな。
キッチンツアー。そう、火は無くIH。これで12人一斉皿出しをするにはどうやったって料理に限界がありますな。
「今日はDJの子がお休みなので、ボクが回してました!」とシェフ。
両腕に燦然と輝く緑の刺青とtwo-finger salute。由緒正しき英国式ファックユーサイン。
どうせエルブジをこじらせた奇をてらっただけのレストランでしょ?という軽い気持ちでお邪魔しましたが、意欲的で、躍動的で、色々と感銘を受けました。The World's 50 Best Restaurantsが目を付けそう。
正直、料理は全然美味しくないのですが、それは取るに足らない問題だと思います。値上げして直接材料費に充てればある程度のレベルには引き上がるだろうし、何なら腕の良い料理人を引き抜いて来れば良い。料理の方向性は同じだけれど味がきちんとしているサン・セバスティアンのセルーコぐらいにはすぐに追いつくはず。
一方で、シェフのラリったキャラクターは天賦の才であり、金や努力で解決できる問題ではありません。賛否両論あるものの、彼の世界観は物語を作ることができ、東京の食シーンを巻き込んで引きずり回すパワーがある。
この鬼才にレストランの未来を見ました。期待と応援の気持ちを込めてその場で次の予約を入れると、空いていたのは3ヵ月も先。1日24人しか入れないとはいえ、オープン2ヶ月でここまで予約を埋めるとは、ううむ。今後が楽しみです。
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