ナリサワ/青山一丁目

来月誕生日だよねお祝いドコがいい?と尋ねると、「あ、ナリサワ」と即答。「あ」じゃねーよ簡単に言いやがって。
The World's 50 Best Restaurants、今年はついに世界8位。長いあいだ弥栄を祈り続けていましたが、こんな高みにまで登り詰めるとは。なのにお店の方から「わー、タケマシュランいつも読んでます~」とおっしゃって頂けるのは嬉しいやら面映いやら。
半年前はナリサワのプライベートブランドのシャンパーニュでしたが、最近の価格改定と共にハウスシャンパーニュはドンペリニョンへ。グラスで飲むにしてはリーズナブルで納得のいく値付けでした。ドンペリって日本だといかがわしい酒の象徴のような扱いですが、やっぱ値段相応に美味しいと思います私は。
森のパン発酵中。連れは目を輝かして喜んでいる。私は良いことをした来世では必ずや報われることでしょう。
里山の風景。私の感性の狭さ故、毎度の事ながら左上の木のエキスに理解が追いつかない。。。風景自体はオカラやヨーグルト、ゴボウなどで擬態されており全て口にすることができます。料理というよりも雰囲気を食べる皿。
さて今回もイケメンソムリエに全てお任せ。彼のセレクションは緩急自在で毎度毎度感心する。まずはアルザスのリースリング。ペトロールのペの字も感じさせない透明感。クリア中のクリア。水のように飲んでしまいました。
 神戸牛のタルタルにキャビア、芽ネギをカリカリの湯葉にのせる。単刀直入に旨い。直線的な味わいとわかり易さという意味では、本日一番のお皿かもしれません。
佐賀のスッポンのから揚げ。こちらもしっかりと味付けがしてあって、高級なからあげクンのよう。あ、ビール飲みたいかも。
おなじみのタマネギのフリット。タマネギの旨味と甘味が凝縮されており、ああ、野菜って美味しいんだなと再認識させてくれる逸品。
北海道のイクラは深みがある一方で生臭さの欠片も感じられない。明石のタイは、かの有名な水口氏が〆たもの。まさか気鋭のフランス料理屋でお目見えするとは懐が深いのう。石川のボタン海老はしっかりと昆布で締められており、ねっとりとした舌触りとともに官能的な味わいが味蕾を包み込む。ウニは新鮮の極北にあり絶品。スダチの泡にも品格が感じられ、世の和食屋は当店に修行に来るように。
氷見のソーヴィニョンブラン。氷見ってワイン造ってるの!?驚きでした。氷見の食材と言えばブリしか知らんぞ。冷涼であるためか酸味がはっきりとしており旧世界の上質なワインのようでした。
森のパンの発酵が終わり、250℃の窯で焼く。
今回は青柚子と和栗が主題。黒糖で風味づけ。世界で一番のパンです。パンという脇役を用いてテーブルに花を咲かせることができるだなんて信じられない。
桑名のハマグリ。ハマグリの出汁は当然のこと、バターかな?動物性の旨味も感じられました。もみじおろしで辛めに仕上げているのも面白い。フランス料理屋で辛い料理を初めて食べたかもしれない。

ところで桑名。この地名には思い入れがあります。昔々イタリア旅行中に知り合った桑名在住の女性と遠距離恋愛をしたことがあり、これがまた金に汚い酷い女でほんの2ヶ月で別れたのですね。それでもむこうは嫌だ嫌だ別れたくない合鍵絶対返さへんからなとゴネにゴネまくってああ鬱陶しい。仕方なくマンションの管理会社に「鍵を無くした。住所が特定できる書類と一緒に落としたかもしれない」とどうでもいい嘘をついて鍵を丸ごと交換してもらって一件落着、という時にピンポーン。覗き穴から玄関外を伺うと宅急便。届いたのは合鍵でした。心から無駄な鍵の交換費用でした。
オーストラリア。透明感に溢れた赤でピノかなあと思いながら香りを取ると、薬草のような香り。「そう、グルナッシュなんです」ユニークだなあ。これだからワイン探訪はやめられない。
 パンは上質ではあるものの、森のパンとどうしても比べてしまう。
 一方でバターはお見事。見た目はもちろん、塩分もきちんと取り揃えられており名脇役。
 伊勢海老のフリットは絶妙な火入れで素材としての旨さと料理としての美味しさを双方楽しむことができます。鮮やかな唐紅のフルーツトマトは高知産。ヴァニラの香りをプンプンにきさせておりうっとりしてしまう。
このお皿に対しては直汲みの日本酒とボジョレ。「前回はモルゴンでしたよね?今回はサンタムールで」と鬼CRMっぷりを発揮。なぜ覚えているのかと尋ねると「何となく覚えているものです」。それにしても2003のガメイとかテラ・インコグニタ(未開の地)すぎる。果実味が豊かながらとにかく複雑で、トマトジュースのようなニュアンス。フルーツトマトと抜群にマッチするのです。
液体窒素さんいらっしゃい。数年前はそこかしこで液体窒素とエスプーマが咲き乱れていましたが、最近あまり見かけませんね。それでも当店は生真面目に使い続けるので、哲学を感じます。
兵庫のサワラ。芳醇な旨味が濃縮中。バリっと炙った焼き目が愛おしい。
そこへ液体窒素で固めたソースを投入し、エレン・イェーガーに仕立てる。味はもちろんのこと、遊び心も忘れずに。
フュメ。コクがあって、サワラの旨味に負けておらずバッチリ。レストランのワインって楽しい。ボトルで注文する楽しみ、ペアリングでお願いする楽しみ。どっちがいいのか永遠のテーマだなあ。
ギャア嬉しい!1週間に2度も白トリュフにありつけるとは!香りが官能的すぎて全然箸が進まねーじゃねーかよう!

「自殺する権利」についてヨーロッパで議論が活発ですが、私が何か不治の病を患った際は、白トリュフを嗅ぎながら悦に浸っているところをヘッドショット一発で仕留められたいです。旭化成と同様に、全く悔いの無い人生である。

香りを嗅ぎすぎて鼻がバカになってしまいそうなので、冷静さを取り戻し真面目に料理に向き合う。すると、赤座海老の甘味と味噌のコクがうまいのなんのって。再び正気を失いました。
香りに負けじとパワフルなソーヴィニョンブラン。樽がバリバリ。いいなあこういう信念のあるワイン。
特殊なシートに包まれて蒸されて出てきたものは、、、
山口のアマダイ。華やかな鯛のエッセンスをキノコが受け止め、スダチの香りが彩を添える。スープの一滴一滴まで全て舐め尽くしました。
ピノって当たり外れが多いので、狭量な私はビビってあまり注文しないのですが、信頼のおけるソムリエの選択であれば間違いありません。 飲み口からしなやかに身体中に染み渡る一点の曇りなき葡萄酒。最高に美味しかった。
お肉は京都の合鴨、鹿児島の豚、神戸牛、鳩から選ぶことができます。ただし2人で揃える必要アリ。「あなた、どー見ても鳩食べたそうだよね」とお気遣い頂きましたが、きょ、今日ゎキミのお誕生日祝いだから、と断腸の思いで選択権を譲りました。神戸牛の赤身肉。真っ黒けっけのナリサワスタイルです。
赤身肉が流行し始めて久しいですが、神戸牛の赤身を食べる機会はあまり無かったかも。なんとも力強い味わい。繊細の中に野性味を感じられる。ちなみに真っ黒けっけは野菜やら何やらをパウダー状にしたものを長時間かけて黒くした何か、だったような気がします。
力強い料理には大きく振りかぶってど真ん中の赤ワインを投げ込んできます。ぴったりだ。食べ応えのある肉を何度も何度も咀嚼し、赤ワインをガブリガブリ。至福である。
酔ってきたので勢いづいてもう一杯。テンプラニーリョはあまり飲み慣れていないのですが、緻密でバランスが良くて率直に美味しい。
お誕生日ケーキ。私は連れのお母様とも親しいので、「僕は何度も食べたことがあるから、家に持って帰ってお母さんと一緒に召し上がれ」と大人の対応をしました。決して断腸の思いで、ではない。繰り返すがこれが大人の対応である。
 玉響意識を失うほどはっきりとしてパンチ力のある抹茶。それでいて気品溢れる苦味。感動的ですらある。
 和栗も素材の良さが丸出しで、季節感が猛然と押し寄せてきます。今気づいたけどこれ、カタツムリ?
 甘味が水蜜桃のように伸びていく。栗にぴったり。
 さてお楽しみ、ミニャルディーズは全部くれコーナー。
連れも私に習って全部くれ。彼女は決して大食漢では無いのですが「今日はね、朝からカップメンのミニだけしか食べてないの。万全の状態よ」。
頭の芯まで気持ちよくアルコールが染み渡り、調子に乗って食後酒まで。マールかあ、マールって高いんだよなあ。まあいいか。今までのナリサワで一番酔っ払いましたですハイ。
前後不覚になりつつあったところ「胸につかえるほど食べたり酔っ払うほど飲んだりするのは、食べ方も飲み方も心得ぬやからのすることである」という言葉を思い出し、エスプレッソのダブルを立て続けに2杯飲んで気を引き締める。ごちそうさまでした!

何度訪れても毎回感動してしまう私は幸せ者である。料理の内容は毎回少しづつ変わってはいるのですが、その根底に流れるストーリーは首尾一貫している不思議。ドラマを造るのが上手いお店です。

一方で、難しいお店でもあります。予約が取れない。支払額に腰を抜かす。キャンセルは3日前までそれ以降はフルチャージ。したがって、2ヶ月先の予定を確約できる信頼の置ける人としか絶対に来ることはできない。気楽に接することのできない崇高で特別な存在。私にとってハワイ旅行と同程度の位置づけです。たった一食のためだけに。

それだけ重みのあるレストラン。私は誇りに思います。


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「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。