ワインをめぐる冒険 vol.10~20歳の春に一目惚れした貴方は何処へ~

チェックアウトぎりぎりまで部屋でくつろぎ、完全に疲労回復。最終日にして体力全快。
シャンパーニュの気温は7月下旬にして14℃。半袖姿の私には堪える寒さ。東京の37℃とか体温より高いじゃん抱き合ったほうが涼しいんとちゃうか。
今回のTGVも1等。座席が広くポケットやテーブルの位置も快適で、これまでのTGVで最もお気に入りの車両でした。日本の新幹線はどこも似たようなものですが、TGVは車両によって席の快適度合いが大きく異なります。
パリに着いて早速ランチ。買ったばかりのミシュランを午前中に読み込み、アクセスの良いビブグルマン(リーズナブルでそこそこ美味しい店)にあたりをつけ、ネットから予約しておくという行動力。東京では見ることのない、そして東京に進出したらヒットしそうなレストランで大変気に入りました。

フライトまで6時間ほど余裕があったので、パリ観光に繰り出す。実は私、モンサンミッシェルと同様に、モンマルトルも行ったことがなかったのです。
この写真は初めてパリに降り立った20歳の春のもの。当時のモンマルトルは、道行く人の半分は殺人鬼でもう半分は強盗犯だったので、魅力的ではあるものの絶対に近づいてはならないゾーンだったのです。

なのですが、ここ数日のパリ界隈の観光客の多さ並びに脇の甘さを勘案すると、私が悪人であれば私を狙わずもっと隙のあるバカを狙うと確信し、ついにモンマルトルの門戸を叩くこととなったのです。
駅に降り立ってすぐにある愛の壁。複数言語でGreeeeeeeenも真っ青の愛の唄が奏でられています。
テルトル広場。似顔絵描きがたむろっていますが腕は中分であり見るべきものはありません。
サクレ・クール。パリにある他の寺院とは異なった雰囲気で面白い。
内部は厳粛な雰囲気で私語厳禁なのですが、アジア人観光客がくっちゃべっていてすげえ怒られてました。
当寺院から望むパリの全景には息を呑む。
芝生には市民と観光客が綯い交ぜに平和を紡ぎ出しています。
お次は凱旋門。上には登らず遠景ならびに股をくぐるのみ。ここには何とも甘酸っぱい記憶があるのです。

再び時を遡って20歳の春。虚言癖のある面倒な恋人と首尾よく別れることができ、浮かれ気分の私はヨーロッパ一人旅を満喫しておりました(虚言ちゃんよ、あなたが私のことを忘れられなかったことを私は忘れないよ)。

ひとりで凱旋門の上に立ちパリ市内を眺め、遠くに来たものだと物思いに耽っていたところ、呼吸を忘れるほどの美女を視界の端に捉えたのです。

彼女は世の不幸を一身に背負ったような表情を浮かべており、長く見惚れていた私と視線が交錯するのは時間の問題。不確かな笑顔とともに彼女は身の上を語り始め、要約すると「青学4年でもーすぐ卒業なんだけど就職決まってなくて現実逃避のためにパリに留学中のカレシの家に転がり込んできた」。

うん、今日はここまでにしておきましょう。ともあれ、彼女は幸せになっているだろうか。あの人は今。情報求む。
使い捨てカメラ全盛の時代、すなわちシャッターの1枚1枚に重みがありフィルムの無駄使いは許されないご時世にこの自撮り力。エッフェル塔まで完璧にフレームにおさめるあたり、我ながらあっぱれである。
ちなみに、凱旋門の足は2本でなく4本だということが意外にも知られていないのでここに記しておく。
パリ日本文化会館。たまたま通りがかったところ入場無料であったため、好奇心の赴くままにお邪魔します。しかしそこには私の知る日本は1ミリも存在しませんでした。お手洗いが清潔だったことが救い。この近辺でもよおした際には皆さんここにお立ち寄り下さい。
違法の路上販売者たち。昔はミサンガを腕に巻きつけてきて法外な金額を請求したり、偽ブランドバッグやサングラスを売りつけたりする連中が多かったのですが、最近は自撮棒。時代を感じます。
エッフェル塔。なんとも高踏的で説得力のある佇まい。私は大阪出身の田舎者なので、東京タワーが都会の象徴として信じ込んでいるのですが、いやはやエッフェル塔もかっこいいじゃないですか。
どこまでも広がる芝の海と青い空。みんなで楽しく甲羅干し。パリの豊かさはここにある。ミクロでは課題が多いけれどもマクロに接すれば世界有数の様式美。ナチスドイツの侵攻に際し、街の美しさを護るために無防備都市を宣言した勇気。そうした決断があってこその今。

ふと周りを見渡すと、芝生に身体を横たえながら特に何をするでもなくエッフェル塔の空をぼんやり眺めている観光客が大勢。私と同じようにこの街の美しさと歴史へ畏敬の念を抱いているかと思うと、この街の豊かさが心に染み入ります。

私はパリひいてはフランスに対して何の貢献もしておらず、刹那的にその豊かさだけを掻い摘んで良いとこ取りをしていることにはただただ恐縮。それでも歴史への感謝は人一倍大きいので、少しでもこの感動がみんなに伝わるといいな。

ド定番な観光地巡りをしておきながらこのような意識が芽生えるのは何だか可笑しい話ですが、これからも東の果てから花の都を大切に思い続けていきたいと思います。また来るぜ。

「ワインをめぐる冒険」シリーズ目次

このシリーズは間違いなく名著。一般的なガイドブックと全く観点が異なり、完璧にワインラヴァーを向いています。ワインがテーマのフランス旅行においては必携!


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