とくを/木屋町

カウンター数席と個室のみの小さな小さなお店。たん熊出身。ミシュランの星は得ていないのですが、食べログにおいては4.4.を叩き出すなど、京都の市街地では非常に有名なお店。店主が居丈高であったりと、客に緊張を強いるような独特の雰囲気が和食店には多いのですが、当店はそんなこと全くなく、とてもリラックスして食事を楽しむことができます。
左、フグの皮の煮こごり。いきなりウマい!ダシの味わいと皮の歯ごたえがたまらない。上、黒豆をどないかしたもの。印象なし。右、アジの南蛮漬けは間違いなく美味しいのですが、今ここで食べる必要があるのか疑問。
お造りはシマアジにヒラメ、本マグロ。どれも無茶苦茶美味しかったなあ。特にシマアジ、歯ごたえがあり、あつ、味も濃いため30回は咀嚼したかもしれません。刺身が一番美味しかったというとなんだかアレですが、本当に美味しかった。
かぶら蒸し。これは全然。作るの大変で難しいのかもしれませんが、セブンのおでんと大差なし。
マナガツオの西京漬けにホタテ。マナガツオは好きな食材ではないためノーコメント。ホタテは好きな食材なのですが、シンプルに炙っただけなので美味しいに決まってる。
湯葉まんじゅう。湯葉って無条件で好き。しかもたっぷり使ってあって嬉しい。中身には牡蠣やら何やらがゴロゴロ入っていて幸せな気分になれる。
こ、これは和食なのか?アスパラ、ナス、パプリカ、カニのクラッカー揚げ。油切れも悪く雑な調理に感じました。


お漬物に赤だし、ちりめん山椒のごはん。どれも及第点。
甘味は黒豆のパンナコッタ。もう少し甘みをつけても良いと思う。

どの皿も美味しかったです。しかしビビッドな皿が無い。優等生なお店。ランチであったためか、めっちゃくちゃ安かった。夜にお邪魔しないと本当の実力はわかりませんね。

ところで、オーナーシェフの徳尾さんは人柄が素晴らしく、とても気持ちの良く食事を楽しむことができます。料理にも店の雰囲気にも、彼の人柄の良さが滲み出ている。二番手の方の味付けチェックのたびに、「うん、ありがとう、お願いします」という神対応。こういうの、見ていて気持ち良いですよね。

飲食業界は体育会系という風潮、ほんと良くないと思います。才能溢れる人材が、くだらない上下関係に嫌気がさして他の業界に流出してしまう。仕事ぶりや実力に対してフェアなお方が料理業界で実権を握っていって欲しい。そうすれば、体育会的なシバキは少しづつ是正されていき、より日本のレストランのレベルは上がるのかもしれません。

若干論点がズレてしまいましたが、気持ちの良いお店。今度は夜に訪れフルコースで本当の実力を楽しんでみたいと考えています。


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柊家/京都市役所前 vol.3

 食事中に女将さんが挨拶に来、部屋のつくりや見どころなどを丁寧に説明して下さる。なんとこの床の間は、すっげー古い木を人間国宝なお方が特別に作ってくれたものらしい。うおお途端に緊張するじゃないかそんなこと言われると。
天井などにも意匠を凝らしています。芸術品に囲まれて泊まる。
朝起きてすぐに貸切風呂へ。
良い雰囲気です。
朝食はよくある旅館のそれでした。可もなく不可もなく。
湯豆腐を何度もおかわりできたのですが、今回の旅行で自宅を空ける直前に、冷蔵庫の中身を片っ端から食べ尽くす必要があり、豆腐を何丁も何丁も繰り返し食べまくって来たので、ちょっとやそっとの豆腐じゃ動じないのだよ。

というわけで、全般的には満足できた宿でした。しかし、食事のレベルがやや低い。料理一本で勝負している和食店に食べに行った方が充実すると思います。

また、「歴史に泊まり、歴史の一部分となる」という体験をするという意味では妥当な価格だとは思うのですが、宿泊施設として公平に評価すると、ラグジュアリーなホテルのほうが分がありますね。1泊10万円以上なら百名伽藍とかリッツカールトンとかのほうが良いよなあ。じゃあ、当館にフィットネスクラブやバー等を取り付ければ良くなるかというとまたそれは違う話なので、難しいところ。ホテルと旅館を同じ尺度で比べること自体、野暮なことなのかもしれません。サッカーと野球のどっちが面白いか、みたいな。

そういう意味で、「京都の老舗に泊まる」ということを達成したいのであれば、素晴らしい旅館だと思います。外人に京都に泊まるのであればどこが良いかと問われれば、間違いなく当館をおすすめします。ここには日本伝統と世界基準の利便性が詰まっている。
錦市場の「有次」という、世界的に有名な包丁ブランド店を訪れた際、店員が全員、日本語英語できちんと外人に対応していたことに驚きました。同様に、柊屋も外人の扱いが非常にうまい。ドメスティックを究めれば究めるほどグローバルに近づくというパラドックス。

世界最高峰の調理器具を販売する有次は、京都にしかない(築地の有次はのれん分けの別会社)。柊家は、京都にしかない。したがって、外人はこの土地に来るしかない。日本が大恐慌に陥ったとしても、クーデターにより国家が転覆したとしても、有次や柊家の商売は未来永劫続くのでしょう。

グローバル化は目指すものではなく、道を究めれば自然と訪れるものなのかもしれません。色々と考えさせられた旅でした。

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柊家/京都市役所前 vol.2

さて夕食。柊家はレストランとしても一ツ星を獲得しているので期待大。場所は部屋でも大広間でもどちらでもOKだったのですが、せっかくなので、部屋食に。
食前酒は「古都しぼりたて」。そんなに良い日本酒でもないのに、どうして最初に飲ませる必要があるのか。キリっとした白ワインのほうが良かったな。
先付は松葉蟹に
海老芋あんかけ、ウニ。松葉蟹の量がたっぷりあってすごく良かった。テンション爆アゲですよのっけからこんなことされちゃうと。
お椀は牡蠣真丈。前日の吉兆に比べると非常に上品な仕上がり。つまり、個人的には吉兆のほうが全然好き。牡蠣の味わいが直線的に伝わってこないんですよね。
向付はタイ、ブリ、マグロ。ブリが特に良かった。
八寸はアワビの竜田揚げがgood。やわらかく仕上げた上にアワビ自体の味がきちんと残ってある。ばちこ(くちこ。ナマコの卵巣)があるのも嬉しかったけれど、ほんの一口しかなかったため、ストレスがたまってしまう。
マナガツオの西京漬けに堀川ゴボウ。マナガツオ、あんまり好きじゃないんですよね。嫌いじゃないけど好きでもない。美味しいと思ったことが一度もなく、今日も同じく美味しくない。他方、堀川ゴボウはとても良かった。レンコン級の食べ応え。ああ、今、私は大地を食べている!と実感させてくれる、滋味豊かで深い味わい。
タラの白子。これは全然美味しくない。スシローのネタと全く変わらない。というかスシローってネタに拠って、超高級和食クラスのネタを平然と100円で提供してくるから恐ろしい。最近のお子さんは回転寿司に行きまくって舌が肥えているので、日本の和食レベルは今後どんどん上がっていくことでしょう。外人なんか、1世紀かかっても日本の和食に追いつけないと思います。
炊き合わせはカブに鴨の団子。これもぜーんぜん美味しくない。カブはしょせんカブなのだよ。鴨はそこらへんのスーパーの肉団子のほうが旨味が強く(MSGだと思うけど)、話になりません。
赤だしは辛うじてミシュラン一ツ星を感じさせてくれる気高さ。湯葉と椎茸がよかった。
かにごはんは蟹の身の量がケチケチしており、前日の吉兆の圧勝。おかわりも不可ですし良いところ無し。
香の物も印象なし。
水物はラフランスが瑞々しくて素晴らしかった。イチゴミルクは甘みが薄く、かといってイチゴが美味しいわけでもないためアウト。

というわけで、当館をレストランとして見た場合、八寸まで良くて、あとはデクレッシェンドです。ミシュラン一ツ星はちょっと嘘でしょう。ミシュランは和食に対して評価が甘すぎです。そもそも和食は調理技術にあまり差がつかず、味の差の原因は素材がほとんど。食べる前からなんとなく勝負がついているんですよね。スポーツで言うと陸上競技。

そういう意味で、和食を食べるのであれば、数万円の支払いは覚悟しなければ、本当に美味しいお皿にはたどり着くことができないことを再確認した夜でした。


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関連ランキング:旅館 | 京都市役所前駅烏丸御池駅三条駅

柊家/京都市役所前 vol.1

京都の老舗旅館。ミシュランガイドにおいてはレストランとしても宿としても素晴らしいと評されたオーベルジュ。著名人だと川端康成が一時期ハマって、しょっちゅう泊まりに来ていたらしいです。

もともとは江戸時代の福井の武士だったのですが、「農民の方が儲かるんじゃね?」ということで庄屋に転職してそこそこてうまくいっていたところ、庄五郎というレイジアゲインストザマシーンな青年が上京して居を構え、ふるさとの魚介類を売ったり運送業をしたりで一旗あげ、知り合いを家に泊めたりしているうちに副業として旅館業を始めたところが、柊家の始まりらしいです。一方で、庄五郎のせがれはアーティストの才能があったらしく、刀に模様を彫る職に就き、武士とのコネクションを築き上げ、一気に柊屋をブレイクさせたとのこと。なんだかリアリティ溢れる由来で良いですね。
なんとも風格のある佇まい。数百年前からここにあると思うと胸熱です。打ち水とかされてると、キリっとしちゃう。
下足番に靴を預け、ロビーに通される。うおぅ、我々以外、全員が外人じゃないか。閲覧用の雑誌や案内板などに英語が溢れており、おおーさすがKYOTO!
素敵な笑顔の熟練サービスマンに部屋へ案内される。そのスマートな身のこなし、外資系ラグジュアリーホテルのそれと変わらないかそれ以上。一流であればコンテンツが異なったとしてもゲストに与えるものは全く同じですね。
部屋はかなり広い。80平米ぐらいあると思います。
文机は足を掘ってあり、座りやすく。
テレビは隠してある忍者スタイル。そうですよねテレビってほんとインテリアの敵ですもんね。
2階なのに小さなお庭がついています。

ミニバーも充実。
洗面所は和を保ちつつも機能的。

お風呂も清潔。浴槽の木目が美しい。
トイレは超高級和食店のそれと同じ。
クローゼットにあったお裁縫セットが超キュート!
部屋を探検しているうちに、女中さんがお茶を持ってきて下さる。
宿の案内を熟読。無線LANや英字新聞に気軽に対応。いいですね、この柔軟さ。世界を舞台に勝負するとはこういうことなのでしょう。

大広間は柱が無く全面ガラス張り。
日が暮れると、より一層雰囲気が良くなります。


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