2024年4月にオープンして以来、その高いクオリティと費用対効果で瞬く間に話題となった「とり吾(とりご)」。食べログでは百名店に選出されています。最寄り駅は中目黒で、山手通りから一本裏路地に入った閑静な場所に佇んでいます。
無駄な視覚的要素を極限まで削ぎ落としたシンプルかつモダンな内装(写真は食べログ公式ページより)。グレーと白を基調としたシックなマテリアルが用いられ、横並びのカウンター席が9席のみ整然と配置されています。店内にはBGMを一切流さず、静寂の中で炭火がはぜる音や、肉が焼き上がる微細な音を主役に据えることで、食への没入感を演出しています。ちなみに数山裕平シェフは「いぐち」や「とり澤」、そして
恵比寿の迷店「わさ」などで修業を積んだようです。
飲み物はハートランドの中瓶が990円と、まあ、この手のレストランとしてはこんなもんでしょうか。日本酒の用意も豊富なのですが、ゲストの多くは炭酸水やお茶ばかり飲んでおり、焼鳥屋でノンアルかあ、と、時代はすっかり変わってしまった。
さっそく焼鳥に入ります。鶏肉は単一の銘柄鶏の仕入れに固定化することをあえて避け、週替わり(?)で色んな地鶏を取っているようです。
コチラ砂肝。コリコリとした独特の歯ごたえが持ち味で、塩でシンプルに焼き上げることで、香ばしい炭の香りと歯切れの良い食感が引き立ちます。
鬼おろし。大根を粗く挽き、繊維がしっかり残るざらりとした食感が特長的。シャキシャキとした水分をたっぷり含み、箸休めとして次の串へ向かう味覚をリセットしてくれます。
ささみ。火を入れ過ぎず、ミディアムレアの加減で焼き上げることでパサつきとは無縁のシットリ感を演出。ツンとしたわさびの辛味や爽やかな香りが、ささみのほんのりとした甘みと調和します。
つくね。大葉を練り込んでおり、ふっくらとジューシーな肉の旨味と、爽やかなハーブの香りが絶妙に溶け合います。口当たりはふんわりと柔らかく、コクがあるのに後味は軽やか。
もも。鶏肉の中でも最も脂が乗り、ジューシーな旨味が凝縮された定番部位です。皮目はパリッと香ばしく焼き上げられ、内側の肉はしっとり柔らかい食感のコントラストが楽しめます。
レバー。臭みを感じさせない丁寧な下処理と絶妙な火入れによって、口の中でとろりと溶けるような舌触りに仕上がっています。濃厚でクリーミー。赤ワインが欲しくなる。
むね。皮つきで、パリッとした食感と淡泊で上品な肉の味わいダブルで楽しめます。脂のしつこさを肉の淡白さが和らげ、お互いの良さを引き立て合う逸品。
金針菜(きんしんさい)。中華食材としても知られる百合の花のつぼみを乾燥させたもので、シャキシャキとした独特の歯ごたえとほのかな甘みが特長的。クセのある風味を持ちながらも、火を通すことで穏やかな味わいに変化し、鶏肉の脂とよく馴染みます。
せせり。鶏の首の筋肉部分であり、よく動かす部位ならではの圧倒的な弾力と凝縮された旨味が印象的。歯切れの良い食感と力強い味わいのバランスが良く、病みつきになる味わいです。
ぼんじり。鶏のお尻の肉であり、鶏肉の中でも屈指の脂の乗りを誇ります。プリッとした弾力のある食感とともに、噛むたびに濃厚な脂の甘みがじゅわっと溢れ出す。炭火で炙られることで余分な脂が落ち、香ばしさが加わることで、くどさを感じさせないバランスに仕上がっています。
ちょうちん。未成熟卵(きんかん)と輸卵管(ひも)を一本の串にまとめており、口に含んでプチンと弾けさせると温かく濃厚な半熟の黄身がトロリと溢れ出します。この濃厚な卵黄がソースとなり、同時に口に入る、クニュクニュとした力強い弾力と旨味を持つ輸卵管の肉に絡み合います。これは口腔内で調理する、即席の鶏すき焼きだ。
〆にそぼろ丼を追加注文。旨味が凝縮された鶏の挽き肉を甘辛い出汁(?)でじっくりと炒め上げており、刻んだ大葉の爽やかな清涼感が混ざり合うことで、濃厚なのに驚くほどさっぱりと食べ進められます。ここに温玉を割り入れることでまろやかなコクが加わり、みんな大好きな味わいに。量もたっぷりで、コースの締めくくりにふさわしいお食事でした。
以上を食べ、軽く飲んでお会計は1万円。昨今の焼鳥界隈はコース価格の劇的な高騰が進み、気軽にアクセスしづらいハイエンド化の傾向が顕著ですが、当店はこのような市場環境に対して一石を投じる価格設定です。当日の予約電話に対するお断りが目立ちましたが、それも納得の内容でした。
関連記事焼鳥は鶏肉を串に刺して焼いただけなのに、これほどバリエーションが豊かなのが面白いですね。世界的に見ても珍しい料理らしく、外国人をお連れすると意外に喜ばれます。
素人にとっては単に串が刺さった鶏肉程度にしか思えない料理「焼鳥」につき、その専門的技術を体系的に記しています。各名店のノウハウについても記されており、なるほどお店側はこんなことを考えているのかという気づきにもなります。