2024年4月にオープンし、さっそくゴエミヨへの掲載の運びとなった「sincerita 拓(シンチェリタ タク)」。店名「sincerita」はイタリア語で「誠実さ」を意味します。高岳駅から歩いて7-8分の場所に位置し、予約は1年以上待ちが当たり前の大人気店「イル アオヤマ」の跡地ということで、風水が良さそうです。
店内はカウンター8席のみのライブキッチンスタイル。私はお邪魔したことがありませんが、「イル アオヤマ」時代から殆ど変わらない居抜きのようです。一斉スタートであり、最初に予約を入れた人の時間がその日の開始時刻となります。
アルコールにつき、何故かビールのラインナップが充実していたので、それに乗っかることにしました。コエドが千円程度で楽しめるとは、この手のレストランとしては良心的。ROCOCO Tokyoを3,000円とかで置く店は人の心を失っていると思う。
まずはグリーンピースのスープ。春の訪れを告げる鮮やかな緑のスープは適度にザラつきがあり、グリーンピース本来の力強い甘みと香りを楽しむことができます。トリュフも適量で程よいアクセント。そこへ揚げたそら豆のクリスピーな食感と香ばしさが加わります。
フォアグラのサンドにほおずき。濃厚なフォアグラの脂の甘みを、食用ほおずきのフルーティーな酸味と独特の香りが鮮やかに引き立てます。ありそうで無い組み合わせですが、ありよりのあり。ほおずきのジューシーな果汁が、口の中で溶け出すフォアグラの重さを軽やかに中和します。
甘エビの魚醤マリネし、ブッラータやキウイ、キャビアと共に愉しみます。ねっとりとした甘エビの甘みを魚醤が引き締め、クリーミーなブッラータチーズが全体を優しく包み込みます。キウイの爽やかな酸味とキャビアの塩気が心地よいアクセント。ソースにはトマトのエキスを凝縮したものを用いており、ひと皿で甘・酸・塩・旨がバランス良く共鳴します。
サワラを生ハムとバジルで巻いて揚げ、カツとして仕上げました。これはとっても美味しいですねえ。サクッとした衣の中から溢れるサワラの肉汁と、加熱されて香りが増した生ハムの旨味が上手く組み合わさっており複雑玄妙な味わい。添えられたフレッシュなトマトが揚げ物の重さを払い、イタリアンらしい爽快感のある味覚に昇華しています。
グリーンアスパラの炭火焼きにカツオの藁焼き。瑞々しいアスパラの甘みと、燻香を纏ったカツオの濃厚な旨味が交わります。春の苦味を象徴するフキノトウや行者ニンニクのタプナードが野生味溢れるアクセントとなり、熟成された黒にんにくソースの深いコクが全体に重厚感を与えます。季節の滋味を凝縮したようなひと品です。
パンは全粒粉パンとフォカッチャを用意してくれるのですが、いずれも自家製の焼きたて。素朴な味わいながら単なる添え物ではなく、コースの進行を支え、ソースの最後の一滴までを味わい尽くすための重要なコンポーネントとして機能しています。
アマダイのウロコ焼き(揚げ?)。パリパリに逆立てられたウロコの食感と、対照的な身のふっくらとした柔らかさがいいですね。ソースはズッパ・ディ・ペッシェ(魚介スープ)を土台としており、魚介の旨味を極限まで詰まっています。
目の前で伸ばされカットされ茹で上げられるパスタ。麺には卵黄がたっぷりと練り込まれており、麺そのものが旨い。ソースはハマグリの出汁をベースにしているそうで、毛ガニと共に強烈な旨味が感じられます。菜花のほろ苦さが全体に春の輪郭を際立たせてくれるのもすごくいい。
メインは漢方牛のイチボの炭火焼。肉そのものの味を楽しむスタイルで、清らかな赤身の旨味を堪能します。ソースは牛出汁ベースでエシャロットの辛味と酸味が加わることで、肉の輪郭がくっきりと浮かび上がります。添えられた芽キャベツの甘みと行者にんにくのパンチが、野生的な満足感をさらに高めてくれます。
〆の炭水化物にイカスミのリゾット。こちらもアサリやハマグリのお出汁がベースとなっており、このパンチの強さで塩を一切用いていないとは驚きです。トッピングされたホタルイカを噛むと、その濃厚な肝の旨味が溢れ出し、リゾットのコクをさらにブースト。それでいて食べ疲れることのない、計算されたバランスが光ります。
デザートはイチゴのティラミスを再構築したもの。マスカルポーネのリッチでコクのあるクリームが、イチゴの鮮やかな酸味を優しく包み込みます。コーヒーの苦味の代わりにイチゴの香りが華やかに立ち上り、添えられた濃厚なミルクアイスが口の中で溶けることで、ひんやりとした軽やかな余韻でコースを優雅に締めくくります。
焼きたてのフィナンシェと紅茶でフィニッシュ。ごちそうさまでした。
以上のコース料理が2.2万円で、ビールやワインを加えてお会計はひとりあたり3万円弱。料理の質および量、ならびにシェフの華々しい経歴を考えれば実に良心的な価格設定です。日本の食材を多用しつつ独創的でありながら、きちんと美味しいのが素晴らしいですね。これは季節ごとに旬の食材を試したくなる。オススメです。
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