南城市の豊かな自然と静寂の中にひっそりと開業した「Nocturne okinawa(ノクターン オキナワ)」。沖縄食材を活用したフランス料理店であり、昼間は大きな窓から美しい海の景色が広がります。なお、コストコよりも更に海側にある僻地であり、夜間の運転は緊張するエリアでもあります。
昼間は地元のギャルや観光客が中心の客層で、アフタヌーンティーや映えるパフェが大人気。他方、夜はグっとシックな雰囲気へと変わり、シェフのワンオペによる1夜1組での営業です。
南竜二シェフは富山県出身で、東京の名店やブルターニュ地方で経験を積んだのち沖縄へ。ビストロやケータリング、出張シェフ、キッチンカーなど様々な業態を経験した上で当店を開業しました。
アルコールのペアリングは8,800円、ノンアルコールのドリンクは4,400円と良心的な価格設定。ワインは料理との王道の組み合わせが多く安定感があります。
アミューズはレバームースとビーツにキャビアと豪華版。滑らかに仕立てられたレバーの濃厚なコクと、ビーツの土を思わせる柔らかな甘みが重なります。ビーツの鮮やかな紅色が視覚的なアクセントとなり、トッピングされたキャビアの適度な塩気が全体を引き締め、スパークリングワインを誘う上品なひと口に仕上がっています。
馬肉のタルタル。脂身の少ない馬肉を細かく叩くことで、肉本来の清涼感のある旨みと、しっとりとした舌触りが強調されています。シンプルながらも素材の鮮度の良さがダイレクトに伝わる、力強くも繊細なひと品です。
エビとホタテのホットサンド。香ばしく焼き上げられたパンの食感の中から、エビのぷりっとした弾力とホタテの柔らかな甘みが溢れ出します。温められることで魚介の香りがより一層立ち上がり、バターの芳醇な風味が全体を包み込みます。最高に旨い。こういうのを毎日食べる生活を送りたい。
フォアグラのテリーヌ。口に含んだ瞬間に体温でとろけるような質感で、特有の濃厚でクリーミーな脂の旨みをソーテルヌと共に愉しみます。これがフランス料理だ。ナツメのジャムの穏やかな酸味と深い甘みとも良く合う。
パンも全て手作りで、全粒粉を用いており、特有の香ばしさと、噛み締めるほどに広がる小麦本来の力強い風味が特長的。素朴ながらも料理の邪魔をしない誠実な味わい。店名の焼印が付いているのもかわちいです。
やんばる若鶏ソーセージとリ・ド・ヴォー。沖縄県産の若鶏を使用した軽やかなソーセージに、リ・ド・ヴォー(仔牛の胸腺肉)特有のまったりとした濃厚さが加わります。焦がしバターソースのナッツのような香ばしさが全体を繋ぎ、淡白な鶏肉に奥行きのあるリッチな風味と香りを添えています。
久米のリ・ド・ヴォー名人に食べさせたいくらいです。
カリフラワーと白菜のポタージュ。冬野菜の優しい甘みが溶け込んだ滑らかなスープに、沖縄伝統のラフテー(豚の角煮)の豚脂の旨みが深みを与えます。仕上げに削られたミモレットチーズのナッツのような風味と塩気が、野菜の甘みをより鮮明に浮き立たせ、フレンチと沖縄料理が融合した滋味深い味わいです。
お魚料理はキジハタのポワレ。しっとり仕上げられたキジハタに、酸味の効いた上品な白ワインソースが寄り添います。百合根のホクホクとした食感とロマネスコの程よい歯ごたえがリズムを与え、淡白ながらも脂の乗った高級魚の旨みをソースがエレガントに引き立てます。
お肉料理はエゾジカ。まさか沖縄でエゾジカを食べるとは思いもよりませんでしたが、こちらもまたクラシックな仕立てであり、赤ワインを用いた酸味を感じさせるソースで楽しみます。島ニンジンの力強い甘みのピューレと菊芋の土の香りがするコロッケが添えられ、大地の力強さをひと皿で表現した満足感のあるメインディッシュです。
デザートは抹茶パフェ。カフェ営業時のパフェはいいねが100億万件付く映えの聖地ですが、夜間はいくらか簡易バージョンで、抹茶の心地よい苦みと豊かな香りを軸として楽しみます。甘さは控えめに抑えられており、コースの締めくくりにふさわしい清涼感です。
小菓子までしっかりと用意されており、ワンオペでこの仕事量をこなすとは頭が下がる思いである。ブルターニュ地方の伝統菓子であるファー・ブルトンが提供されるのも修業先へのオマージュが感じられて素敵です。
以上のディナーコースが14,300円に8,800円のアルコールのペアリングを付けて23,100円。この質と量のフランス料理をこの価格で享受できるとは、正直驚きを隠せません。
「沖縄食材を用いて~」のようなフランス料理店は王道で勝負できないが故に奇をてらってお茶を濁しているだけのことが多いですが、当店はモノホンのフランス料理。沖縄の食材を多用しつつも良いものがあれば世界中の食材を活用とするベスト オブ ブリードな姿勢に強い信頼と好感を抱きました。
ビストロやケータリング、出張シェフ、キッチンカーなどの試みについては既に述べましたが、現在も近隣の宿泊施設へ配達するためのシャルキュトリーを作ったり、酒販免許を取ってワインの販売も行ったりと、とにかく仕事の幅が広く引き出しの多い料理人です。そのうち農場を拓いてチーズまで造りそうな勢いである。
南城市は素敵な宿泊施設が多いものの美食については不毛の地であるため、旨いものに困った場合は当店に相談すると、何とか解決してくれるかもしれません。オススメです。
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