日本で2番目に古いアーケード商店街として知られる佐竹商店街に佇むフランス料理店「KOTARO Hasegawa DOWNTOWN CUISINE(コウタロウ ハセガワ ダウンタウン キュイジーヌ)」。ゴ・エ・ミヨ掲載店であり、ミシュランではセレクテッドレストラン、食べログでは百名店に選出されています。
店内は4卓のみの限られた席数で構成されており、余分な装飾を削ぎ落としたミニマルな設えでありながら、下町らしい温もりと親しみやすさが共存しています。
長谷川幸太郎シェフはフランスからの帰国後に
「ひらまつ」グループで料理長や取締役を歴任し、「ボキューズ・ドール国際料理コンクール」で2007年に世界第6位、2016年のアジア・パシフィック予選優勝など輝かしい実績を持ちます。
コース料理は13,200円で、ワインのフルペアリングは9,000円。お料理ひと皿ごとに割としっかりしたグラスワインをお出し頂け、トータルでは500-600ミリリットルぐらいでしょうか。フランス産を中心に王道の組み合わせを展開してくださいました。
いきなり琵琶湖のマスをドーンとしたポーションで最初からフルスロットル。淡水魚ながら泥臭さは無く淡い甘みとほのかな脂が心地よい。底に敷かれたナスのピュレは火を通して甘みが立ち、わずかな苦みと土の香りが魚の清らかさを受け止めます。
キノコ特集。セップと鶏で引いたコンソメは濁りのない旨みで、茸の森と鶏の甘みが透明なまま溶けています。ジロールはアンズに似た香ばしさと胡椒のような刺激、ブラウンマッシュルームは湿った土のニュアンスとコクを足します。頂のホタテは程よく熱を入れて甘く引き締まり、コンソメに奥行を与えます。
ポワレしたフォアグラは脂の甘さと鉄のような濃さが同時に広がり、その濃厚な旨味を自然な甘みを湛えた滑らかなカボチャのペーストとほっくりとした栗の風味が受け止めます。こっくりとした秋の甘美さが広がる中で、ピスタチオやカカオニブの軽快な歯ごたえが食感のアクセントをもたらします。
パンは噛み締めるほどに広がる小麦本来の素朴で力強い風味が印象的。ホイップクリームはたっぷりと空気を含んでおり、淡雪のようにふんわりと軽やかな口溶けを誇ります。ちなみにお酒のマスに詰めるなど日本文化の発信が明確に意図されており、江戸切子や古伊万里をはじめとする和骨董が多用されるのが楽しいですね。
肉厚のサワラ。身はほぐれずに弾力を残しつつ脂が甘く溶け、青魚の主張は強すぎず白身寄りの上品さが感じられます。ししとうの軽い苦みとピーマンの青く甘い香りが脂のコートをほどいていきます。ソースは白ワインをベースとしており、ヴェルヴェーヌの爽快なハーブ香が心地よく溶け込んでいます。
メインは紀州鴨。ムネは皮を香ばしく焼き、鴨脂の甘さと野生の香りを楽しみます。モモは火を通して繊維がほぐれ、より肉らしい濃さに。添えられた春巻きのような物体は鴨で仕立てたブーダン・ノワール風の料理であり、サルミのソースと共に濃厚でスパイシーな深みを与えます。
シェフはパティシエとしてそのキャリアをスタートしておりデザートづくりもお手の物。シャインマスカットの弾けるような皮の歯ざわりと瑞々しく芳醇な果汁を楽しみつつ、フロマージュブランの酸味とマスカルポーネの濃い乳脂を合わせたアイスでマスカットの爽快な甘味を優しく包み込みます。
ハーブティーでフィニッシュ。ごちそうさまでした。以上のコース料理が13,200円で、ワインのペアリングは9,000円の合計が22,200円。都心であれば倍請求されても文句の言えない質および量であり、この費用対効果は驚異的。
何より単なる「下町の親しみやすいビストロ」に留まらず、徹底的に研ぎ澄まされた正統派フランス料理の技術体系と日本の骨董器や江戸切子が醸し出す情緒が見事に結実しているのが素晴らしいですね。都心一等地のグランメゾンとは異なる文脈で日本のフランス料理文化の新たな可能性を切り拓いた名店と言えるでしょう。オススメです。
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