武蔵小山駅から徒歩3分、日本料理と手打ち蕎麦を提供する「蕎麦割烹 倉田(くらた)」。ミシュランではビブグルマンに選出されています。黒塗りの外観が超クールです。
店内はカウンター7-8席に加え、テーブル席がいくつか(写真は一休公式ページより)。地元の常連客が殆どで、今夜はちょっと旨いもんでも食べに行くか!的に朗らかな雰囲気に満ちています。
倉田政起シェフはミシュラン1ツ星「日本料理 神谷」で腕を磨いたのち、当店を開業。料理人のコンペティション「RED U-35」でGOLD EGGを受賞するなど、日本料理界隈では高い評価を受けています。
土地柄を反映してか酒は高くなく、瓶ビールは千円を切り、日本酒も1合千円強といった程度です。しかもこれは本当に1合なのかと不安になるほど気前よく注いでくれ、四捨五入するとユートピアです。
我々は13,500円のコース「白蓮」を注文。まずは白海老とヤングコーンの天ぷら。富山湾産の白海老は甘みと旨みが強く、プリッとした食感が心地よい。ヤングコーンは若々しい甘さとシャキッとした歯応えが魅力的。薄衣でカラリと揚げられ、白海老の繊細な風味とコーンの瑞々しさが引き立ちます。
トウモロコシに葛粉を混ぜて固めたものでしょうか。モチモチとした口当たりにトウモロコシの甘味が際立つ。添えられたゴボウの風味も力強い。小鉢には茄子とジュンサイが用意され、独特なヌメリとプルンとした弾力が、爽やかなアクセントを加えます。
お鮨も出ます。左から本マグロのトロ、メジマグロ、ヒラメの昆布締め。いずれも丁寧な仕上がりで、反社が金に飽かせて行く鮨屋の存在意義に一石を投じるクオリティです。
ハモは蕎麦のお出汁で楽しみます。骨切り済みのハモは湯引きでふわっとした食感に仕上り、繊細な昆布と鰹の出汁がハモの繊細な旨みを引き立てます。十割蕎麦がチョロっと敷かれ程よいアクセントに。
カツオのたたきは玉ねぎポン酢で頂きます。カツオの表面を香ばしく炙り、しっとりした赤身と脂の旨みが堪らない美味しさ。玉ねぎのほのかな辛みとポン酢の酸味がカツオのコクを底上げします。
お造りはアオリイカ、ホタテ、ムラサキウニ、本マグロ。素材の良さはもちろんのこと、添えられた海苔のソースが素晴らしいですね。香ばしい海苔の風味を愉しみつつ、ほどよく酸味も感じられ、夏の清涼感を演出する上品な仕上がりです。
揚げ物は江戸前の穴子。薄衣でサクッと揚げ、香ばしさと柔らかな食感を引き出します。ソースはニラ味噌で、ニラの鮮烈な香りと味噌のコク、ほのかな甘みが調和します。正直なところ、専門店の
「てんぷら近藤」の穴子よりも全くレベルが高いです。
トウモロコシのかき揚げ。トウモロコシの濃厚な甘みと粒の弾ける食感が魅力的。小粒ながらも夏の旬をシンプルに楽しむ存在感のあるひと品です。
仙台牛のサーロインはすき焼き仕立てで楽しみます。霜降りのきめ細かな脂が口でとろけ、卵黄で一層まろやかに。スモーキーな薫香風味で牛肉のコクを際立たせる仕掛けも見事です。
〆のお食事は自慢の十割蕎麦。北海道と長野の蕎麦を食べ比べで楽しむことができ、十割の力強い香りが食欲をそそります。蕎麦を日本料理の広範な文脈の中で捉え、その可能性を最大限に引き出しているのが素晴らしい。
デザートは黒蜜のかき氷。濃厚な黒蜜の甘味に加え赤紫蘇のシャーベットはの爽やかな香りと酸味が清涼感を添え、かき氷の甘さを引き締めます。
以上を食べ、気前よく飲んでお会計はひとりあたり1.7万円。六本木や銀座であれば2-3倍は請求されるクオリティであり、大大大大大満足。店主はもちろんスタッフのみんなたちの感じも良く、なるほど地元民に強く支持される理由がよくわかりました。今度はランチに蕎麦をたっぷり食べに来ようかな、いや、ディナーのアラカルト注文も捨てがたい。選択肢の広さも含め、実に魅力的な日本料理店でした。

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