金武町の「ASBO STAY HOTEL(アスボ ステイ ホテル)」のメインダイニング「Alo Edesse (アローエデッセ)」がゴエミヨに掲載され、沖縄フレンチ界隈で話題を集めました。
さっそく訪れてみるのですが、あれ?なんか建屋がダサい。病院や市役所のようであり、ロビーのスタッフもスポーツクラブのニイチャンのようなユニフォームで、気が利かなく、ナニコレ大丈夫?といきなり不安になります。
ダイニングもガランとしており淋しさに満ちています。恐らくホテルの朝食会場としての利用が主なのかもしれませんが、ディナータイムは大きなガラス窓が全て夜の闇に塗りつぶされており、テーブルクロスも無ければナプキンも無いスタイルなので、高価なフランス料理を楽しむには漠然とした不安を抱えてしまう。昼間は海が見える開放的な空間のようなので、ランチに訪れるべきレストランなのかもしれません。
まずは今帰仁産のスイカに自家製ハム、ライスコロッケ。いずれも丁寧に作られたアミューズであり、これまでの内外装に係る不安を払拭し、今後の展開に期待を抱かせる完成度です。
看板料理のパスカード。アヴェロン地方の伝統的な食べ物であり、シェフの師匠のスペシャリテでもあります。塩気のあるオカズクレープ的なひと品で、芳醇な香りが鼻に抜けつつ仄かに感じる塩味と甘味を楽しみます。ちなみに私はシェフの修業先であるオンフルールの
「SaQuaNa(サカナ)」や、その系列であるパリの
「Pascade(パスカード)」にお邪魔したことがあるのが密かな自慢です。
島バナナのスープ。海ブドウやシークワサーなども組み込まれており、沖縄の食材を大胆に再構築したひと品。ゴーヤの清々しい苦味と島バナナのトロピカルで濃厚な甘みにつき、一見ミスマッチに思える両者が互いの個性を補完し合い、調和のとれた深い味わいを生み出しています。
パンはいくつかご用意頂けましたが、いずれも穀物の風味を強く感じさせるしみじみ系であり、ソースを拭って食べるにちょうど良いです。
こちらは
ミシェル・ブラスの偉大なスペシャリテ「ガルグイユ」へのオマージュ。数十種類の野菜が皿の上で共演し、根菜は甘みを引き出すようにじっくりと火を入れ、葉野菜は鮮やかな色彩と食感を残すよう瞬時に火を通すなど、ひとつひとつの野菜が持つ個性に合わせた緻密な調理が施されています。こういう料理を毎朝食べたい。
お魚料理は沖縄の高級魚「アカマチ」。皮目はパリッと香ばしく、身はしっとりとジューシーに焼き上げられています。茗荷の爽やかな香りにローゼル(ハイビスカスの一種)の酸味が見事なカウンターバランスとなっています。
続くお魚料理は「マクブ」。やはり沖縄を代表する高級魚であり、その弾力のある引き締まった身質と上質な脂の旨味をストレートに楽しみます。フィンガーライムの鮮烈な酸味と島ラッキョウのピリッとした辛味が不思議とよく合う。沖縄でしか口にすることのできない味覚でしょう。
金アグーのタン。独特の歯切れの良い食感があり、そこにソース・アメリケーヌの濃厚な旨味が加わって、タンの味わいに奥行きを与えます。
メインも金アグー。先のタンとはまた違ったテイストの味わいであり、カレーリーフが香る甘酢ソースという、フレンチの枠を超えたアジアンテイストのソースが合わせられます。厚切りでムシャムシャとした食感も心地よく、様々な食材が複雑な味のレイヤーを構成します。
デザートはパッションフルーツのアイスクリーム。南国を思わせる鮮烈な酸味とトロピカルな香りがやはり美味しい。それを受け止めるキャラメルガナッシュの濃厚な甘さとほろ苦さ、カカオニブのビターな風味とカリカリとした食感、カカオチュイル(薄焼きクッキー)の香ばしさがカカオの多面的な魅力を伝えます。
お茶菓子に紅茶でフィニッシュ。お茶菓子にしてはショコラの質が異常に高く、なんでも専属のショコラティエがいるそうです。
以上のコース料理が16,000円にワインペアリングが6千円。こんなんで商売は成り立つのかと心配になる費用対効果です。お金の話を抜きにしても料理のレベルは非常に高く、なぜこんなところ(失礼)にバリキャリの凄腕のシェフがいるのか、これは日本のフランス料理界にとって大きな挑戦ではないかと勝手に案じてしまいます。これは本物だ。東京でデビューすれば、いきなり天下を取れそうな完成度のディナーでした。
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