ウズベキスタンを訪れると、その強烈な食文化の洗礼を受けることになります。
プロフやシャシリクといった伝統料理は力強い旨味にあふれているものの、油をたっぷりと用いるため、数日もすればあっさりと胃袋が悲鳴を上げ始めます。そんなタシケントにおいて、「伝統的なウズベク料理を現代的でヘルシーなスタイルにアレンジして提供する」という、旅行者にとって一筋の光明のようなコンセプトを掲げるのが「Afsona Shevchenko(アフソナ シェフチェンコ)」です。
店内に入って驚かされるのが、その洗練された空間づくりです。ロンドンのデザイン会社と、ウズベキスタンの著名な芸術家であるBobur Ismailov氏が手掛けたという内装は、伝統的なモチーフを散りばめつつも極めてモダンでスタイリッシュ。客層も観光客だけでなく、地元のアッパー層や国際機関の職員などが集っており、タシケントの最先端の空気を吸い込むことができます。さらにスタッフは流暢な英語を話し、対応も洗練されており、言葉の壁に怯えることなく安心して食事を楽しむことができます。
まずはウズベキスタンのワインと「イチゴのレモネード」とで乾杯。新鮮なイチゴを丸ごとミキサーにかけた贅沢な一杯であり、口に含んだ瞬間に広がる圧倒的な果実味と、種のプチプチとした粒感が特長的です。しっかりとしたイチゴの存在感がありながらも、レモンの爽やかな酸味と適度な炭酸が上手く調和しており、甘さは控えめ。タシケントの暑い日差しの中で火照った体を優しく冷ましてくれる、最高のジュースです。
サラダにはウズベキスタンの定番「Achichuk(アチチュク)」を。トマトと玉ねぎを合わせただけの極めてシンプルなサラダですが、当店は素材の質に徹底してこだわっています。太陽をたっぷり浴びた濃厚なトマトの甘みと、驚くほど薄くスライスされた玉ねぎの辛みが鮮やかなコントラストを描き出します。味付けは塩と少しのバジルのみで、ドレッシングなどの油は一切不使用。トマトから溢れ出す天然の果汁がソース代わりとなり、驚くほどみずみずしい口当たりです。この後に続く肉料理の箸休めとして、口の中をリセットしてくれる相棒ともなります。
「Crispy Eggplants(揚げナスのサラダ)」。こちらはAfsonaの人気メニューのひとつであり、食感のレイヤーが非常に豊かな一皿です。高温でさっと揚げられたナスは、外側はカリッと香ばしく、内側は驚くほどトロトロでジューシー。そこに弾けるような食感のチェリートマトが加わり、砕いたくるみのカリカリとしたアクセントが奥行きを与えます。アジアのエッセンスを感じさせる濃厚な甘辛ソースがナスのコクと絡み合い、トッピングのパクチーがオリエンタルな香りを添える。サラダというよりも「温かい前菜」に近い満足感があり、一度食べると癖になるモダン・ウズベク料理の象徴とも言える味わいです。
続いて「Crispy Appetizer Platter」。ウズベキスタンの伝統的な粉もの料理を、現代的な盛り合わせスタイルで楽しむことができます。通常はスープに入れる小さなウズベク風餃子を揚げてスナック感覚に仕立てた「Fried chuchvara」、ほうれん草とチーズが詰まり伝統的な肉のサムサより軽やかに頂ける「Cheese & spinach sambusa」、パリッとした皮の中に野菜や濃厚なチーズが包まれたペストリー「Vegetable rolls / Cheese muleny」など、多彩なサクサク感の競演です。これらを「サワークリーム・ガーリック」と「トマト・ガーリック」の2種のソースにディップして頂くのですが、揚げたての香ばしさとソースの清涼感が絶妙にマッチし、思わずワインが欲しくなる洗練された前菜でした。
メインディッシュは肉のアソート。伝統的な炭火焼きで仕上げられるシャシリクを、肉の種類ごとに食べ比べることができる欲張りなひと皿です。 馬肉は非常に肉質が緻密で、噛むほどに野性味のある濃い旨味が溢れ出しますが脂は軽やか。牛肉は王道の味わいで、適度な弾力があり炭火の香ばしさが肉のジューシーな脂を際立たせます。牛タンも厚切りながら柔らかく、独特のサクリとした食感と濃厚な風味が堪りません。鶏肉はしっとりと柔らかく焼き上げられ、スパイスの香りが最もダイレクトに伝わるマイルドな味わいです。
また、主役の肉を支える付け合わせの野菜たちが素晴らしい。炭火でじっくりと焼き上げられたジャガイモは、外側はカリッと香ばしく、内側は驚くほどホクホクとした食感。肉から滴り落ちる良質な脂とスパイスの香りをたっぷりと纏っており、単なる付け合わせを超えた濃厚な旨味を蓄えています。トマトは加熱されることで甘みが凝縮され、口の中で弾ける天然のソースのように肉に絡みます。
以上を食べ、お会計はひとりあたり4〜5千円程度。洗練された空間と無駄のないサービス、そして何よりこれだけ質の高い料理をたっぷり楽しんでこの価格とは、東京のレストランで飲み食いするのが馬鹿らしくなるレベルの費用対効果の良さです。支払いにクレジットカードが利用可能なのも、現金社会のウズベキスタンにおいては有難いポイントです。
伝統的な味の芯を捉えつつも、胃もたれしにくい現代的なアプローチで構成された素晴らしいレストラン。初めてウズベク料理に挑戦する旅行者にとっても、連日の油っこい食事に疲れた胃袋にとっても、まさにオアシスのような存在。タシケントにおいて清潔感と味の両立を求めるのであれば、間違いなくおすすめのレストランです。
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「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。