JR和歌山駅東口から徒歩3分の「炭割烹 新谷(しんたに)」。焼鳥をメインとした割烹スタイルの鶏料理専門店であり、ソムリエ呼称資格を有する店主によるアルコールペアリングが評判を集めています。食べログでは百名店に選出。
店内はカウンターに10席ほどに個室がひとつ。18・19・20時の予約枠があり、それぞれ一斉スタートで進捗します(写真は一休公式ページより)。新谷洋平シェフは様々な飲食業態での経験があるようで、当店の前身である「炭火やきとり新太郎」を経たのち、「炭割烹 新谷(しんたに)」へとリブランディングしたようです。
アルコールのペアリングが自慢ですが、料理それぞれにガチガチに定めているというよりは、好みや飲むペースを勘案して柔軟に対応してくださいます。ワイン多めな方や日本酒多めな方など楽しみ方は実に様々でした。
コースの幕開けを告げるのは熊野地鶏のガラから丁寧に引かれたエキスを土台としたポタージュ。ホワイトマッシュルームやホウレンソウも組み込まれており、下支えする地鶏の重厚なコクとのバランスが心地よい。
さっそく串焼き。当店では熊野地鶏を毎日捌いて串打ちし、和歌山県が世界に誇る最高級木炭「紀州備長炭」を用いて焼き上げます。コチラはモモの塩焼きで、歯を入れた瞬間にパリっとした音と共に皮が弾け、その奥から圧倒的な肉汁が押し寄せます。地鶏特有の赤身を帯びた肉質は、ブロイラーにはない心地よい弾力と噛みごたえ。噛めば噛むほどに濃い旨味が舌の上に蓄積されていきます。
続いてネギマ風の一本。モモ肉の脂が炭火で熱され、その滴り落ちる脂が炭に触れて立ち上る燻煙を纏い、隣り合うネギへとその旨味を移しています。加熱されたネギは芯までトロトロに甘く、王道にして至高の組み合わせです。
続いて胸肉。パサつきは一切なくシットリ感と滑らかさが心地よい一串。きめ細やかな繊維の間に上品な甘みを蓄えており、そこにホワイトマッシュルームが挟まれることで特有のアーシーなコクが加わりエレガントなハーモニーが広がります。
春巻きには鶏そぼろにゴボウ、旬のキノコが潜んでいます。挽肉になってもその力強い味わいを失わず、そこにゴボウの大地を感じる土の香りとキノコ由来の風味が重なり合います。中華の春巻きとはまた違った魅力のあるひと品です。
脂の乗った地鶏料理が続く中での、一服の清涼剤、鬼おろし。水分が出すぎておらず、ザクザクとした野菜本来の食感を残しています。出汁醤油やポン酢の角のないまろやかな酸味も心地よく、口の中に残る鶏の脂をさっぱりと洗い流してくれました。
ブラウンマッシュルームの炭火塩焼き。炭火でじっくりと水分を内側に閉じ込めながら焼かれたキノコから、噛んだ瞬間に熱々のジュースが溢れ出します。肉厚な食感はアワビすら想起させ、植物性とは思えないほどの満足感を与えてくれるひと品です。
ソリ。モモ肉の付け根にある希少部位であり、筋肉質な繊維質ととろけるような脂身の両方を兼ね備えています。皮で包み込むように整形して焼かれているため、外側のカリッとした食感と、内側のプリプリと弾けるような弾力の対比が鮮烈です。
あか。コチラは脂肪分が控えめで、その名の通り肉色は濃く、味わいは繊細でミルキー。きめ細やかな繊維が舌の上でほどけていくような上品さがあり、口の中で肉汁が優しく広がります。
つくし。肩甲骨あたりのお肉であり、骨に近い部分特有の濃厚な旨味を蓄えています。肉質は柔らかくシットリとした質感で、ほのかな鉄分のニュアンスが感じられます。淡白に見えて実は奥深い味わいがある。
とろなす。その名の通り口に入れた瞬間にトロリと溶けてなくなるような食感。皮目は炭火で焦がされることで香ばしい風味を纏い、身の部分は熱せられることで水分が活性化しクリームのような滑らかさに変化しています。
お口直しにミニラーメン。透明度の高い清湯系のスープで、野菜のエキスもたっぷりと含まれており、特有の優しい甘みが追いかけてきます。麺はスープをよく持ち上げる細麺で、つるりとした喉越し。シンプルを極めた構成だからこそ、熊野地鶏という素材の良さが際立つ完成された一杯です。
松葉。鎖骨にあたるV字型の骨についたお肉であり、骨周りの肉こそが一番美味しいことを証明する逸品。骨から肉を剥がす時の野性的な楽しさと、骨のエキスが染み出した濃厚な味わいが格別。筋肉質でシコシコとした食感があり、噛めば噛むほどに味が湧き出てきます。
レンコン。焼き芋のようにホクホク、そしてお餅のようにもっちりとした粘り気が生まれており、糸を引くような濃厚さと土の香りを纏った強い甘みが口いっぱいに広がります。日本酒と共に力強い食体験。
つくね。様々な部位をミンチにしているのか、噛む場所によって肉の旨味や脂の甘みが複雑に変化します。濃厚なタレが絡み合い重量級の味わい。そういえばタレを用いた串焼きはコレ一本だけだったなあ。その限定性を忘れさせるほど熊野地鶏はパワフルな食材なのでしょう。
パレルモ。イタリアンタイプのパプリカの一種だそうで、加熱することで糖度が高まり、野菜というよりフルーツに近い甘味が感じられます。厚みのある果肉からは甘いジュースが溢れ出し、口の中をリフレッシュさせてくれます。
茶碗蒸し。お出汁がたっぷりで、食事の締めくくりに向けて胃腸を整えてくれます。ベースとなる地鶏出汁の深いコクに対し、トッピングされた梅の酸味が絶妙なアクセント。熱々の温度感が心地よく、身体の芯から温まります。
〆のお食事にしらすごはん。地元のしらすのふっくらとした食感と程よい塩気に濃厚な卵黄が絡み合い、米の甘み、しらすの海の香り、卵黄のコクが三位一体に。満腹であることを忘れさせてくれるほど箸が進む最高の締めくくりです。
以上のコースが1万円で、お酒もバンバンしっかり飲んでお会計は2万円ほど。料理と酒の質を考えれば見事な費用対効果です。地元の食材が盛りだくさんなのが旅行者にとって嬉しい。焼鳥好きが和歌山市を訪れるのであれば是非とも訪れたいお店です。
関連記事焼鳥は鶏肉を串に刺して焼いただけなのに、これほどバリエーションが豊かなのが面白いですね。世界的に見ても珍しい料理らしく、外国人をお連れすると意外に喜ばれます。
素人にとっては単に串が刺さった鶏肉程度にしか思えない料理「焼鳥」につき、その専門的技術を体系的に記しています。各名店のノウハウについても記されており、なるほどお店側はこんなことを考えているのかという気づきにもなります。