佐田十郎(サタジュウロウ)/麻布十番

ここのところ頻繁にMakuake(クラウドファンディングサイト)の飲食店広告がタイムラインに流れてくるのですが、おや、「佐田十郎」とは確か十番の店ではなかったか。「予約困難店として有名になった」とも記載されており、あり?そんなに人気のお店だっけ?
食べログの予約状況を確認すると、ううむ、当店はこの状況を「予約困難店」と判断するのか。価値観とは人それぞれである。であればその価値観を試しに行こうとシイタケ嫌いを誘ってお邪魔します。
商店街から一本左に入った裏路地。温かみのあるエクステリアが良い雰囲気を奏でています。テラス席も設けられており、そちらはペットOKとのこと。
香るエールで乾杯すると、背中をトントンとタッチされる。振り返ると東京レストラン事情に精通する神童たちがパーティを開催中。街に出れば誰かに会える。お友達と近くに住むのは良いことだ。
お通しとして供される漬物と鶏白湯スープ。鶏の香りが立っており、実に円やかな口当たり。見事な鶏白湯スープでした。お漬物も脇役という位置づけながらかなりのレベルの高さです。
「季節のおばんざい」からひとり1品を選ぶとのことで、私はキノコのマリネ、シイタケ嫌いはポテトサラダをチョイス。私のものは予想通りの味わい。彼のポテサラは「全然美味しくない。もっと普通でいいのに」と手厳しい。試しに一口頂くと、なるほどジャガイモではなく山芋のような粘り気のあるイモで作られており、ヌルっとした食感がイマイチでした。調味も薄い。
サラダも付きます。野菜が旨いのはもちろんのこと、ボリュームもしっかりあって良かったです。
自家製の鶏白レバーのムースをイチヂクと共に最中に挟んで食べる。レバーそのものの味わいは悪くないのですが、最中が美味しくないですね。お祭りのミルクせんべいのようなモソモソ感でレバーを邪魔します。やるならやるで上質な最中を用いてほしい。
ササミと鶏ヒレ。いずれも大ぶりな串であり、今オレは焼鳥を食べているんだという幸せに浸ることができます。味は中の中の上といったところであり、5千円のコース料理で供される肉という意味ではこんなものでしょう。

ちなみに当店の公式HPでは「4℃の熟成庫で10日間を経た、熟成鶏を使用しています。発酵菌だけを増殖させる発酵シートを使用することで鶏の『世界初、10日間熟成に成功』。余計な水分が抜け、旨味のみが残った『醗酵熟成鶏』。肉質・香りともに今までの焼鳥の概念を根底からくつがえす全く新しい焼鳥をご堪能頂きたいです。」とアピールされていたのですが、鍵括弧の使い方がヘンなのが気になりました。
肉豆腐。肉から脂や旨味が抜けきっており、ボソボソとした食感がイマイチです。それでも皿数の多さは正義であり、スーパースターは不在でも物量で攻めるというのは悪くない作戦なのかもしれません。
地酒は徳利が一律1,150円と一見お買い得なのですが、量は1合にも満たないように見受けられ、結果として高くつきます。そういえば冒頭のビールも量が多くなかったな。料理はリーズナブルですが、それに比べて酒が高いという印象。
「小鶏包」という料理。つくねをせいろで蒸し上げたものかなあ。万人受けする味わいで無難に旨い。
コチラはつくねを焼いたもの。丸々と太った可愛らしい造形です。卵が卵黄ではなく謎の黄色いソースであるのが残念。やはり卵黄が添えられないと絵的に淋しいです。
「左はぼんじり、右はハラミです!」と皿を置いていくスタッフ。しかしながら私の知る限りこれはどう見ても手羽先である。シイタケ嫌いに意見を求めると「方言かも。そういうふうに呼ぶ地方があるのかもしれない」と頭を抱える。

事態を重く見た私は勇気を出して先のスタッフにもう一度尋ねる。すると「ぼんじりですよ?」と自信満々。本当に本当にぼんじりなのかと重ねて問うと、何このオッサンきもいんだけど的な表情をされたので、なるほどこの店ではこの肉塊をぼんじりと呼ぶのだと納得するよう努める。

しかし諦めきれない私は他の店員を呼び止め、この串は何かと問うと「手羽先ですよ」と、何当たり前のこと聞いているんだ見りゃわかるだろ的な対応。私の心が閉じた瞬間でした。「まあ、彼女のあだ名は『ぼんじりちゃん』にしましょうよ」と前向きなシイタケ嫌い。このやり取りの後では串の美味しさも中くらいである。
口直しのシャーベット。丁寧に盛り付けられてはいますが、まあ、本質的にはガリガリ君と大差ありません。口直しとのことだったので、まだ先が続くと思いきや、30分近く放置される。ぼんじりちゃんを呼び止め、この先に何か続くのかと問うと、「あ、〆のお食事は何になさいますか~?」と完全に忘れていた体でした。

中華そば・親子丼・カルボナーラから選ぶのですが、2人で1種に統一する必要があるとのこと。「僕はカルボナーラを食べたいですが、〇〇さん好きなもの選んでいいですよ」と実に恩着せがましい。なればこそ遠慮なく親子丼をチョイス。
さらに20分ほどまってようやく親子丼が到着。しかしながらこれが全く美味しくない。卵のトロトロ感などは一切なく、完全にスクランブルエッグ丼である。ライスはボソボソ、玉子はカチカチ、肉の旨味は抜けているとの三重苦。大学生の自炊でももう少しマシなものを出すでしょう。「完璧な親子丼などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね」とはシイタケ嫌いの評である。「だからカルボナーラがいいって言ったのに」
ラストはコーヒー、ではなく、飲んで驚きシジミのエスプレッソでした。これは美味しいですねえ。シジミの濃厚な味わいに味噌の風味が良くマッチしており、本日一番のお皿でした。
お会計はひとり7,000円弱と、十番にしてはそんなに高くない。ぼんじり事件や壊滅的な親子丼など課題は多いですが、全体を通してそこそこ旨く皿数も多いので、満足度は結構高い。普通にやっていれば客は来ると思うのに、どうして冒頭のような人気店偽装に手を染めるのか理解に苦しむ。予約サイトを駆使した二重価格表示にせよ、このあたりインターネット社会の功罪なのでしょう。


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麻布十番には日本料理店も結構多いのですが、割高であることが多いです。外すと懐が大ダメージを受けるので、信頼のおける口コミと、味覚が似た友人の感想に頼って訪れましょう。
東京カレンダーの麻布十番特集に載っているお店は片っ端から行くようにしています。麻布十番ラヴァーの方は是非とも一家に一冊。Kindleだとスマホで読めるので便利です。

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