すぎ乃/麻布十番

2016年に突如として現れた白壁。また高級和食店がオープンしやがったかと町内会では怖いものみたさで話題となったのですが、主題は「おでん」であり、「そう高くはない」との噂も耳に届いたのでチャレンジ。
奈良県天理市に本拠地を構える人気和食居酒屋「おでん酒庵 すぎ乃」(以上、写真は食べログ公式写真より)。カウンターと個室がいくつかあり、結果として50近い席数がある中々の大箱です。
ハートランドは750円。一瞬チョイ高に感じますが、量がたっぷりあって、何よりサーバのメンテナンスが上手くいっており、実に旨い最初の第1杯でした。
お通しはシジミ汁。澄んだスープに磯の香り。お通し代は800円と一瞬チョイ高に感じますが、店員さんは皆親切かつ機敏であり、サービス料と考えれば納得。

「お椀の蓋って、やっぱり食べ終わったら、出てきた時と同じようにフタをするもんなんですか?」うーん、正式にはそうだと思うよ。今時うるさいことを言う人はいないでしょうが、大した手間でもないので私は保守的にそうしています。

ちなみにフタをひっくり返してお椀にかぶせておくのは絶対にNG。フタに施された模様が傷んでしまうのです。食べ終わったことをアピールしたい気持ちはわからなくもないですが。
スペシャリテのおでんには値段が一切書かれていません。恥を忍んで具体的な金額を尋ねると、「一番安いのが大根で350円、一番高いのは角煮で1,500円」と、かなり強気な価格設定です。1品1,500円のおでんってすげえな。これ1品でセブンの鍋のなか全部買えるんとちゃうか。
ポテトサラダも1。このポテサラがシンプルながら行儀正しい美味しさで、イモの甘さやキュウリのシャクシャク感、肉の旨味がキレイに三権分立しておりモンテスキューも納得の美味しさです。

「でもそれって、食べるの遅い人の場合、未着手なのか食べ終わっているのかわからないじゃないですか。僕、トンカツとか食べに行って、まずは揚げたてのカツから食べるんですよ、ゴハンと一緒にね。で、次に、キャベツを攻めて口の中をリセットする。そして最後に赤出汁を飲む。でも、その前にフウって一息つきたいじゃないですか、お椀の前に。なのにその時に『あ、お椀のフタが閉じられている!この人はもう食べ終わったのかな?』って店員に思われて、下げられはしないか不安で不安でしょうがなくって、全然気が休まらないんです。フウって一息つきたいのに」
おでん様のお出まし。カツオとコンブがベースとなった清澄なダシ。大根そのものというよりも、ダシと共に全体を味わう一品です。なるほどこれは「おでん」という料理を軽く飛び越え、本格的な懐石料理の煮物椀に迫る味覚である。
一般的に、おでんの玉子ってカッチカチであり半熟からは程遠い火入れですが、当店のそれはトロトロに仕上がっておりパーフェクトな湯加減です。イクラをちょこんと載せて腹違いの親子形式で攻めるのも乙な味。

うーん、じゃ、キャベツ食べ終わってフウって一息つく前に、お椀のフタをあけておけばいいじゃん。まだまだ食べますよアピールすればいい。「なんでこっちがそんなに気を使わないといけないんすくぁ!?」
日本酒に入ります。軒先に杉玉が吊ってあり日本酒にも力を入れている模様。2合で千円代から用意されており、店の格に割にはリーズナブルな印象を受けました。

じゃあさ、食べ終わったと勘違いされて、実際に下げられたことはあるの?「それはまだ無いですね」であれば何の問題も無いではないか。永遠の中2病。彼は考えすぎという名の病である。
トウモロコシのかき揚げ。白トウモロコシを用いているためか、糖度が高く甘みが強い。かき揚げ以前に、トウモロコシそのものが実に美味しく感じました。麻布六角のそれと味は同等であり、量は3倍、値段は3分の1と、非の打ち所がないかき揚げでした。
ロールキャベツ。こちらは中くらいですね。決してまずくは無いのですが、おでんとしてこのお店で食べる必要はないかもしれません。やはりロールキャベツはしっかりと洋風で煮込むタイプのほうが好きだ。
タコ。これはべらぼうに旨いですねえ。タコ独特のコクはもとより、煮込む出汁の方向性が全く異なり、思い切り酒を傾けさせる味覚です。
牛すじ。こちらは厳密に言うとおでんはではなく、どて煮ですが、嫌なクドさや甘ったるさは全くないものの、ストレートに解かり易く美味しい。店主は酒飲みの心理を知悉しているに違いない。
ごはんものなどは注文せず、ひたすらツマミとおでんばかりを食べ、少し飲んでひとり5,000円程度。決して安くはありませんが、店の格やサービスレベルの高さを考えれば納得感の高いお店です。何より、旨い。おでんというよりも、割烹の煮物椀が次々に出てくる感じ。すごくおいしい。

唐突におでんという料理が気になり始めた一夜でした。今度はひとり1万円を余裕で超えて来るおでん屋、あざぶ一期とか、行ってみようかしらん。


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東京カレンダーの麻布十番特集に載っているお店は片っ端から行くようにしています。麻布十番ラヴァーの方は是非とも一家に一冊。Kindleだとスマホで読めるので便利です。

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