とんかつ マンジェ/八尾(大阪)

八尾という街をご存知ですか?「八尾空港!?」とピンと来たあなたは立派な航空ヲタク。八尾空港は関西圏のゼネラル・アビエーション(軍事航空と定期航空路線を除いた航空の総称で、報道関係や社用機や自家用機の利用が主体)の拠点として有名です。
「とんかつ?」と即答したあなたは稀代のトンカツラヴァー。そう、八尾は大阪市の南東、電車で20分程のところに位置するのですが、そこから徒歩5分ほどの場所にトンカツの聖地とも言えるお店があるのです。
その聖地とは「とんかつマンジェ」。食べログ4.09で銅メダル(2018年5月)。「世界一行列する」と名高いトンカツ屋であり、この日は開店時間の3時間10分前の8:20に店先に到着したのですが、既に数十人の行列が出来ていました。平和な住宅街にそぐわない異様な光景。ポール・ポジションを取るには6時代に並び始めなければならないそうな。
ネット上に「9時に記帳台が軒先に出され、順次名前を書いていく」という情報が散見されたのですが、この日(2018年5月)は8:20に記帳が開始されました。私は2枚目の台帳の真ん中らへんにピットイン。「恐らく14時前後での案内。3〜4組前になったら電話するから、その頃には近くに戻っておくように」と店員。軒先でずっと待っている必要は無く、どこかへ遊びに行ってもOKです。私はカフェで溜まった記事をひたすら書いていました。

ちなみに夜(17:00〜)の予約もこの時点で記帳することができるので、大阪に宿泊する観光客はアサイチで夜の記帳をしてしまい、日中は奈良へ日帰り旅行するという作戦が有用です。法隆寺駅は八尾駅から30分ほどです。
「あと数組でのご案内」とのお知らせ電話が鳴り、再び店を訪れる。店内の待ち合いスペースでもう十数分待ちます。この間にメニューを熟読し注文を済ませておくという仕組み。カウンター13席のみ。
料理のラインナップが豊富。豚肉の銘柄だけで数種類あり、様々な部位ひいては魚介類や変わり種を含めると、数十種類はあるのではなかろうか。立地や待ち時間を考えると、そう何度でも通えるお店ではないので、皆が皆、競い合うように多くの料理を注文します。
席に着くと揚げ物以外のサイドメニューや調味料が並べなれます。手前の黒くて平たい皿には白トリュフソルトが撒かれており、「まずはヒレから食べて。断面を皿に置いて塩をつけて」と店主より指導が入ります。この店主がまことに良いアジを出しており、寡黙ながら実直に仕事をこなし、ゲストの幸せを最大化させることに生き甲斐を感じているプロの空気がにじみ出ています。
定食に付随するサラダ。シンプルなキャベツのコールスローですが、ドレッシングの味覚が実に真面目であり、オマケのサラダとは言わせないクオリティを感じました。トンカツ屋の良き風習にならっておかわりOKなのも嬉しい。
左はオリジナル ソース。タマネギとリンゴが主体のフルーティーなソースであり、素朴な味わいながら光るものを感じます。

右はお漬物。大根やいぶりがっこなど、いくつかの素材がたっぷり盛り付けられており、トンカツ定食の脇役とするには惜しいほど高品質です。マグロの削り節により旨味が添加され日本酒を飲みたくなりました。
トンカツが揚がりました。私は「鹿児島黒豚&特上ヘレカツ」。単品注文で2,980円であり、プラス490円で定食になります。
こちらは特上ヘレカツ。なんなんだこれは。腰を抜かすほど旨い。今まで食べてきたトンカツ、いや肉料理の概念を覆す味覚です。油で揚げられ水分が抜けていると思いきや、しっとりと鮮魚のような瑞々しい食感。気品あふれる上質の脂から滲み出る豚肉特有の甘さ。私はこれまでトンカツという料理をそれほど好んでいなかったのですが、その曲がった根性をイチから叩き直したくなるぐらいの衝撃がありました。
こちらは鹿児島黒豚のロース。これは想定の範囲内。よくあるトンカツ有名店のよく出来たロースと同等の味覚です。私は特上ヘレカツのほうが5倍くらい好き。
白米も重要な登場人物であると言わんばかりの品質です。ツヤには艶やかさが垣間見え、粘りと甘味のバランスも素晴らしい。縁の下の力持ちにここまでのクオリティを求めるシェフは相当の求道者とみた。ごはんもおかわりOKで、20代前半と思しき隣客が「このメシ、旨い!」と叫びながら何杯もおかわりしていたのが微笑ましい。
赤出汁までいちいち美味しい。豚のスジ肉で3~4時間出汁を摂り、具にはタピオカ・粒山椒が入っています。赤味噌ながら下品にならない調味であり、三つ葉の香りも絶妙な爽快感。高級和食店においても、ここまでのレベルの赤出汁はそう巡り合うことはできません。
オマケで肉じゃがコロッケも注文しました。
これがまた210円ながら実に旨い。滑らかなジャガイモに程よい噛みごたえの肉。並の定食屋のコロッケとは別次元の美味しさがここにあります。
いやあ、旨かった。トンカツはもちろんのこと、ごはんや漬物、赤出汁、サラダ、ドレッシング、調味料に至るまで全てのレベルが極めて高い。シェフはたまたまトンカツの道に入ったわけですが、他のジャンルの料理人であったとしても大成していたことでしょう。それぐらいのセンスを感じるトンカツ定食です。

この日は8:20に並び始めて料理にありついたのは14:20と実に6時間待ちであり、全盛期のトイストーリーマニアを彷彿とさせる人気っぷりですが、一旦記帳さえしてしまえば後は自由行動という意味で、待ち時間の割に不思議とストレスが少ないです。地元民は朝に名前を書いて、一旦家に戻って、夜にのんびり食べに来れるのか、羨ましい。

わが心のトンカツランキング、ダントツの1位です。オススメ!


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「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。

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