すし処 めくみ/野々市(石川)

金沢には『金沢鮨5大シャトー』と呼ばれるカテゴリがあり、小松弥助太平寿しめくみ、乙女、志の輔が揺るぎない地位を確立しています。今回はミシュラン2ツ星である「すし処 めくみ」へ。ちなみに『金沢鮨5大シャトー』と言い出したのは私であり(2018年2月)、今後流行らせて行きましょう。
うすはりグラスでの生ビールで乾杯し、名刺代わりにとマフグの白子をお出し頂けました。匂い立つような官能的な香りに、ことごとく滑らかな舌触り。美食を体現した味覚に連れと共にうなずき合う。
そうそう、当店は写真は完全NG。8席のみを相手にし1日2回転という、非常にアクセスが悪いながらも極めて東京的なお店です。酒だけは気合で記憶したので、アマゾンのリンクで残します。

刺身はマコガレイ、ガスエビ、水だこ、ゲソ。マコガレイがいいですね。透明感があり脂も程よい。塩と山葵だけで食べるにちょうどよい。

アワビも蒸しただけなのに、実に饒舌な味わい。当店は素材に絶対の自信を持っており、ややこしい調理をするというよりは、切ったり蒸したりするだけのものが殆どでした。
岩牡蠣を蒸し、↑のお酒を合わせます。言葉通り蒸しただけであり、塩気は海の味覚、旨味は牡蠣そのものより。蒸し汁(?)がスープとして絶品であり、蒸しただけでこの風味はズルすぎる。
ツマミに水ダコを煮たものと、ノドグロの炙り。ダラダラと脂を垂れ流しながら口へと運ばれるノドグロが絶品。あまりの旨さに絶句し、店内に静寂が訪れるほどです。ううむ、こんなにも暴力的で激しいノドグロは中々ないぞ。

ナマコの卵はナマのままで頂きます。これが今までに食べたことのないような凝縮感であり、カウンター8席全員が集団ヒステリーを起こしたかのように唸り始めました。ばちこをフレッシュにし旨味を抽出したような味覚。たった一口だけなのに、巨大なナマコ20匹分とのこと。

黒龍の大吟醸も素晴らしい。フルーティ、しかも南方系のバナナのような香りが支配的で、旨味がありつつもサラサラと内蔵に溶けて行く。
にぎりに入ります。まずは剣先イカ。数ミリ単位に包丁を入れていき、舌への接地面積を広げていく。大将は「まだまだ甘味が足りない」とおっしゃっていましたが、私にとっては素敵な思い出となりました。

ウニは北海道のものを軍艦でなくにぎりで頂きます。1カンに対して10ピース(?)以上を途上国の乗り合いバスのように過積載させ、それでいて形は保つという芸術。自然と鼻息が荒くなり、鼻から抜ける風味が素晴らしく、一瞬呼吸が止まってしまうほど。

メジマグロ(マグロの幼魚)も将来が楽しみな個体であり、この成長段階で食べてしまってゴメンナサイ。そうそう、当店はシャリがびっくりするほど熱く、刺身定食の丼メシを食べているような感覚です。これはこれでありですね。

大トロは説明不要の傑作。先の熱いシャリと溶け合い、全くクドくない和牛を生で食べているようなクリーミーな舌触り。

鱈の白子軍艦も臭みは全くなく、冒頭のマフグに勝るとも劣らない風味。何も高級魚だけが鮨じゃないぞと語りかけるような一口でした。

「次は毛ガニのちらしずし」と伺ったのですが、これが今まで見たことのないものでした。大ぶりの毛ガニを丁寧にほぐし、味噌やエキスなどとともにシャリを混ぜ込むのです。しかも、一般的なちらしずしとはネタとシャリの重量比が1:9ほどですが当店はその逆。すし通のカニの握りに通じるものがある。とにかくカニの旨味が濃く、カニよりもカニの味がします。日本酒をおかわりだ!

「最近、イワシばっかりで困ってるんですよ。毎朝四時半に家を出て6時から七尾で漁師の帰り待ってるのに、イワシばっか取れて腹立つ」と、飄々としながらもポーカー・フェイスでユーモアを交えてくる左利きの大将。ひょうきんな方である。
鉄火巻きのネタは決して赤身というわけでなく、液状化現象を起こしているトロの部分。海苔の豊かな香り、一粒一粒まで旨い米、トロトロにとろける官能的なマグロ。幸せとはこのようなことを指すのであろう。

黒龍の『しずく』も実に美味しい。非常に香りが高く果物の博覧会のような風味。上品な甘さと心地よい余韻。ぐうかわな一杯であった。
いよいよクライマックスです。分厚くスライスさらたノドグロをバリっと炙り、ジュワジュワと旨味をはみ出しながら手元へ届けられる握り。この味わいにはもはや神々しさまで感じてしまいます。「今、世の中には2番しか出回っていませんから。1番はここにある」と大将が息巻くだけのことがある。

切れ目なく続くにぎりは穴子の炙り。先のノドグロほどではありませんが迫力のある風味であり、ふわりと舌に乗った後はホロホロと溶けていく。隣客が「炙りたてを握って熱くないんですか?」と大将に問うと、「めちゃくちゃ熱いんですが、我慢してるんですよ」と独特の語り口に思わず場が和む。

満寿泉の純米大吟醸はオーク樽で熟成させたもの。酒そのものの濃度が高く、樽由来のナッツやバニラのような香りが穴子の香ばしさにベストマッチ。

〆に穴子太巻き、だし巻き、かんぴょうを巻き込んだ太巻きと海苔のお椀でご馳走様でした。
旨かったなあ、いくらだろうね、ひとり2万ぐらいじゃない?これで1.5万だったら勃起するんだけど、と会計を待つ間ヒソヒソと話していたのですが、お会計はまさかのひとり3万円超えでした。なるほど、そりゃあ、旨いさ。あたり前田のクラッカー。完全に東京価格。テンサゲの決定的瞬間です。

大将ひとりで弟子は取っておらず人手が足りないからか、追加注文は不可、お土産も不可
と自由度も低い。

味そのものは日本トップクラスであり文句なしに美味しいのですが、この立地でこの値段はちょっと高すぎるような気がします。我々は北陸グルメツアーの中でのひとつなので許容範囲内ではありますが、この店だけをターゲットにして東京から飛行機で来るとなると、費用対効果はイマイチと感じそう。


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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。

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