気の早い人のために結論から申し上げると、セバスチャン・ブイエ(Sébastien Bouillet)の『ホットサンドショコラ』が一番旨かったです。
昨年までに比べると買い回りがし易くなりました。今年から入場料を取るようになり、また、入場時間を指定したチケットで、上手に交通整理ができるようになったからでしょう。
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これまでの客層とは明らかに異なり、「仕事早めに終わったからサロショでも除いてみょうかなキャハ☆」のようなOLは殆どおらず、チョコレートに対して真摯に向き合うお姉さまの比率が高まったような気がします。出展者側もその気迫を感じてか、客との対話や試食に係る説明がより多く長く、そして詳しくなった気がしました。
【食べ歩き編】
まずは食べ歩き編。言わずもがなの会期限定作品集であり、ここで食べ逃すと今後一生めぐり合うことができないものばかりです。私は18時間何もカロリーを摂取せずガソリンが空っぽの状態で臨みました。
■ジャニス・ウォン(JANICE WONG)
「アジアベストレストラン50」にてアジア最優秀ペストリーシェフに2013年、2014年と連覇した女傑。新宿ニュウマンに出店し話題となりました。今回はサロン・デュ・ショコラ初出店。柚子の風味が前面に出て爽やかです。
ただし彼女はパティシエール(菓子職人)であってショコラティエール(チョコレート職人)では無い。サロン・デュ・ショコラとはちょっとベクトルが違うように私は感じました。もちろんスイーツとしてはきちんと美味しかったのだけれど。
■ジャン=ポール・エヴァン(JEAN-PAUL HEVIN)
JPH芸人として見逃せない出展です。例年、最も大きなブースを構え、そのデザインも非常に凝っていることが多いのですが、今年はややシンプルに思えました(同じ意味で、サダハルアオキも今年は地味でした)。
各500本限定の『ショコラ ロブスト』。左はフルーティーな酸味が響き、赤系果実の風味が漂う『ドミニク』。右は非常にスモーキーで燻製の香りを感じ、ややもすると葉巻のような『フュメ キューバ』。画期という意味では右の『フュメ キューバ』がお気に入り。ただしいずれも1本1,000円と高価格なのが難点。『マドレーヌ フォンデュ』。その場で焼いたばかりのマドレーヌを温かなカカオのソースに浸して頂きます。チョコレートの美味しさは当然のこと、驚いたのは生クリームの旨さ。ハッキリとしたヴァニラの香りが幸せへと誘ってくれます。こちらは400セット限定で同じく1,000円ほど。
■マ・プリエール(Ma Priere)
「何か飲み物でも飲みましょうか」という話となってもやはりチョコレート主体なのは、さすがはサロン・デュ・ショコラと言ったところ。三鷹にあるショコラトリーであり日本人シェフのお店です。
いわゆるスタバの何とかフラペチーノのような飲み物。残念ながら全然美味しくありませんでした。妙に酸味が強く、また、氷の粒子も粗いため、せっかくのチョコレートの風味がメタメタに薄まってしまいます。
■セバスチャン・ブイエ(Sébastien Bouillet)
リヨンを中心に活動するセバスチャン・ブイエ。世界で最も有名なパティシエで構成される菓子職人の国際協会「ルレ・デセール」のメンバーとして認定されており、近年最も注目されているパティシエ兼ショコラティエです。
今年の食べ歩きメニューは『ホットサンドショコラ』。チョコレート風味のパン生地に、ヘーゼルナッツとチョコレートのペーストと、塩を効かせたキャラメルクリームをサンドし、ホットサンドメーカーでひとつひとつ焼き上げます。
ほんのりと温かい調理でチョコレートの風味が増し、フィヤンティーヌ(薄く焼いたクレープのようなものを砕いた薄いかけら)のサクサクとした食感が堪らない。結論を述べると、今回のサロン・デュ・ショコラで最も記憶に残った逸品でした。
■和楽紅屋(わらくべにや)
日本でトップクラスに有名なパティシエである辻口博啓が手がける和菓子ブランド。そちらがサロン・デュ・ショコラに対し、チョコレートで逆輸入(?)殴り込み。『クール ショコラ カカオパルプ』を頂きます。
うーん、これは普通ですね。トッピングの苺のクランチこそは印象に残るものの、肝心のアイスクリーム自体がイマイチであり、コンビニで売られているハーゲンダッツのほうが美味しいです。これで600円は高杉晋作。
■トシ・ヨロイヅカ(Toshi Yoroizuka)
もはや説明不要でしょう、日本が世界に誇るパティシエ鎧塚俊彦。今回はごくごく小さい規模での出店であり、サロショ向けのチョコレートとフローズン・エクアドル(チョコシェイク)の提供です。
ソフトクリームのようにモッタリとした生地のフローズンチョコレートが実に美味。肌理が細かく味わいも濃密であり、先の何とかフラペチーノと比べると月とスッポンです。
ソースとしてクプアス(アサイーに続くアマゾンを代表するフルーツ)を選択したのですが、ところどころ果肉が散らばっており強烈に酸っぱいので、心からカカオを楽しみたいかたはプレーン味にするのが良いかもしれません。
【持ち帰り編】
さてさてフランスから空輸されてきた逸品たちが勢ぞろい。ほとんどのショコラティエが当イベントに合わせて来日しており、気軽にお話したり、サインしてくれたり、写真撮影に応じてくれたりと、雰囲気としてはプロ野球のファン感謝祭に似ています。私はフランス帰りのパティシエールのお供であり、彼女がベラベラとフランス語で会話しているのを指をくわえて眺めながらニコニコしているだけでした。よし今年はフランス語勉強するぞ。
■ジャン=ポール・エヴァン(JEAN-PAUL HEVIN)
何と言っても私は彼のショコラが一番好き。クーベルチュールが圧倒的に美味しく、ボンボンのセンターのセンスも素晴らしい。もちろんこれは論理の問題ではなく、感性や好みの問題です。
今回は写真右上の『サンジュー(Sanju)』がお気に入り。爽やかな柚子の風味とバジル風味がお洒落かよ。
■フィリップ・ベル(Philippe BEL)
スイーツ界きってのコワモテです。ショコラづくりもひたむきにクーベルチュールにこだわり、「本来、ショコラティエとはカカオからチョコレートを作る人。だから私は真のショコラティエです」と血気盛ん。私のようにカカオ推しの人間にとっては最も愛すべきショコラのひとつです。
■アンティカ・ドルチェリア・ボナイユート(Antica Dolceria Bonajuto)
個人的には今年一番のダークホース。イタリア・シチリア島のチョコレート屋。そもそもシチリア島の外で販売されることは少なく、もちろんサロン・デュ・ショコラ初出店です。たまたま気前良く試食を配っていた所を通りがかったので、ついでのつもりで口にすると、びっくりするほど旨いじゃないか。
カカオと砂糖のみで造り上げる純粋なチョコレート。ジャリジャリとした不思議な食感が印象的。ベクトルとしては日本のミニマルに似ており、つまり私のタイプなのです。昨年のフランソワ・ジメネーズのように相場を理解していないのか、50グラムで800円程度と極めてリーズナブル(ちなみにベルナシオンのタブレットは大きさは違えど3,000円超)。
■フランソワ・ジメネーズ(François Gimenez)
昨年は初出店で相場をわかっておらず、恐るべき低価格で臨み瞬殺で完売した当店。今年は思い切って3~4割の値上げであり、いわゆる標準的な価格へ合流。こちらは私は口にしておらず、友人へのお誕生日プレゼント用です。
フランソワはサインや写真撮影にも快く応じてくれ、雰囲気の良いオッチャンでした。あ、おれもオッチャンか。
■オクシタニアル(Occitanial)
MOF(国家最優秀職人賞:フランス文化の最も優れた継承者たるにふさわしい高度な技術を持つ職人に授与される賞)の称号をもつステファン・トレアン率いるフランス菓子専門店。箱の絵柄はひとつひとつが彼の手書きであり、レジ横のカウンター目の前で本当に描いており大興奮。
どちらかというと菓子職人であるためか、ボンボンのセンターに凝っているような印象をうけました。バラエティ豊かでセンスがある。さすがはMOF、総合力と言う意味ではかなりの高次元まで迫ってきます。
まとめると、今年は
- セバスチャン・ブイエ(Sébastien Bouillet)の『ホットサンドショコラ』
- アンティカ・ドルチェリア・ボナイユート(Antica Dolceria Bonajuto)のタブレット
のふたつが印象的でした。入場したらすぐにセバスチャン・ブイエのブースにダッシュ!目指すは大ホール入って左方面のゾーンAだっっ!
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「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。