紀尾井町 三谷/永田町

日本で最も予約が取れない鮨屋、三谷。その支店が紀尾井町に出店。支店も本店と同様に数ヶ月先まで予約でいっぱいなのですが、グルメ仲間が予約を譲ってくれました。
まさに静謐な空間。カウンター12席に個室がひとつ。この舞台で4人の板前が演じます。この食事のために体調をコントロールし、本日1食目です。コースは全ておまかせ。また、三谷式の目玉である酒のマリアージュも当然に注文。
乾杯はGaston Collard Brut Rosé Grand Cru。なんと通な。年間生産量は僅か1,000本。花束のようなアロマに絹のような肌理の細かさ。ただ、余韻が非常に長く、アペリティフとしては重厚すぎたかもしれません。
まずはカニ。これでもかという程のカニが大量に供されます。アクセントにウニも少々。じつに確固とした味わいですが、最初の第一歩としては強烈すぎる。
あわせる酒はロ万(ろまん) 。ううむ、メッタメタ甘い。。。序盤で飲むには首を傾げるチョイス。また、カニに合うかと言われると、ううむ。
初鰹。春とは思えぬほどの脂のノリ。そしてその脂を上手に溶かし込み、皮目の香ばしさで仕上げる。三谷さすがの調理です。ただ、この時期にしては抜群の品質であることは間違いないのですが、時期を変えればより上質なものを割安に出会えることを考えると、ううむ。比べても詮のないことですが、やはりカツオと言えば天本での迷い鰹を思い出す。
いきなりシャンボール・ミジュニの赤。私はワインと和食を合わせることにつき懐疑的なのですが、こちらはまさにマリアージュ。カツオの香ばしさがより引き立ちます。パチパチパチ。
ノドグロ。低温調理器での調理でしょうか、計算されつくした火の通りです。先のカツオと同様に、当店は脂の融点を自由自在に操作する。これ以上に火を通すと酸化して脂っぽくなるとのこと。独自性が感じられるノドグロ。先日の新潟よりも数倍楽しめました。
泡か日本酒かを選べたので私は日本酒を選択。十四代「純米」中取り無濾過生詰。これは酒の力に1本。メロンのような香りにジューシーな甘味。旨い。
連れはゼクトを選択。これは私の圧勝ではないでしょうかデュフフ。「少しお味見なさいますか?」と小さなグラスで試飲させて下さいました。おもてなしの精神。
ホタルイカを刻みゴハンに和えたもの。文句なしに旨いのですが、ホタルイカの量を振り切って増やすのも良いかもしれません。すし通のカニとシャリがひっくりかえった握りのように。
こちらとの組み合わせは印象なし。水のように飲めてしまう、キレイなお酒です。
通風セットは素揚げセット。タイラガイにウニと海苔、カラスミ。

タイラガイはそれほど好きな食材ではないのですが、当店のそれは絶品。サクサクとした噛み応えに続く海の風味。こんなに旨い仕入れと調理があるのかと衝撃を受けました。

ウニも素晴らしい。独特のクドさと香りを海苔がしっかり受け止め香りが増す。

カラスミはイマイチ。揚げることにより水分が抜け、官能度合いが減ってしまいました。おつまみスティックのようにサクサク食べるには背徳感を覚えずにはいられません。
シモン・セロスのプレステージ。この取り合わせはお見事。旨味の強い食材たちをみるからに爽やかな液体が洗い流す。単純ですが奥が深いマリアージュです。先の通風セットとこのシャンパーニュ1杯をセット5,000円でおかわりしたいレベルです。
鯛のしんじょう。まずは出汁。鯛の骨からの出汁に昆布でしょうか。白眉は白子。裏ごしした後にさらに粒子を細かく滑らかに。出汁と混ぜればまるでチューニングがあったように愛くるしいスープが完成します。外国人が喜びそうなプレゼンテーション。
ガリは特長なく普通。私は分厚いほうが好き。
にぎりは鯛の昆布締めより。中庸。
白イカが秀逸。舌触りは粘っこく、歯ごたえはサクりサクりという矛盾。セクシーで健康的な味わいを吟味する。
ピュリニー・モンラッシェのコチラは樽香が強すぎて白身には合いませんでした。ワインそのものとしてはすごく好きなだけに残念。
ヅケ。当然に美味。ただしこのクラスの店のマグロという意味では標準的でしょう。
偉丈夫なマグロのトロの部分。脂が舌に重くのし掛かるようにして溶けていく。入船でのマグロパーティを思い出しました。
ムルソーも印象に残らず。このあたり鮨とワインの取り合わせはパっとせず離婚気味。
中トロの鉄火巻の上に山盛りの赤身。今風の仕込みです。サンセバスチャンあたりでウケそう。有明産の海苔が出色の味わい。
メルロ主体のサンテミリオン。げげげ鮨にボルドー!?とドン引きしましたが、先の海苔の香りと絶妙にマッチ。シンクロナイズドされた味わいが鼻腔をくすぐります。なるほど鮨とワインもアリですね。保守的になるより変化の一部になったほうが良い。僕、少し視野が広がりました。
コハダは抜群の出来。旨味と酸味と甘味のバランスが完璧で、美食に対する気配りが徹底しています。連れはひとかどのコハダマスターなのですが、その彼も「感動的だ」と恵比寿顔。
アジは大トロ。兎にも角にも脂です。品の無い言い方ですが、当店は安魚の取り扱いが抜群に上手いですね。このアジが海軍にいれば大佐くらいにまでは上り詰めることでしょう。
久米島のボタンエビ。エビ好きとしてはtkmkポーションです。ねっとりと甘い。溶けるような、そして弾けるような舌触りに心が満たされる。
甘い米の香り。強い甘味が支配的。エビの甘味と溶け合います。以外に酸味もあってキレも良し。私好きですこのお酒。
ギョクが面白い。近年流行のスイーツタイプからは少々距離をおき、出汁巻きほどそっけなくもありません。良い意味で中間地点の味わい。
先のギョクとぴったりのマリアージュ。卵とワインは合わせるのが困難とは言われますが、ここに来てはやり日本酒は便利なアルコールだと納得。
ハマグリが傑作。瑞々しく弾力的で、素材そのものの味も味付けの味も両輪きちんと伝わってきます。軽くボイルして、煮て、焼いて、なんだっけ?極めて難解な調理で、現代性を感じる味わいです。その探究心には執念のようなものが感じられる。本日一番のお皿でした。
ハマグリのスープ。圧倒的な凝縮感。雑味が全くなく、ただただ美味が迫り来る。
カンピョウ巻きも旨い。興味深いのはおいなりさん。カンピョウの細巻きを油揚げに詰めてしまうんですね。その斬新すぎない革新に拍手喝采。楽しい〆です。
舞台を締めくくるに相応しい円い味わい。今日も美味しい1日でした。
デザートは梅ひと粒。ジャムのような優しい酸味に心地よい甘味。ちょっと簡素すぎかなあ。水菓子をつけてくれても良かったかもしれません。

以上、ひとりあたり41,000円。うーむ、高い。平たく言うと、味は上等、量は中くらい、ワインはグッド、日本酒も中くらい、お値段はバッドです。同じ値段と予約の取りづらさを考えれば、もう一度行きたいのは天本と考える私。やはりあの店で体験する昂揚感は唯一無二のものがある。

もちろん当店は都会のど真ん中で家賃の問題もあるでしょうから、私のような値段コンシャスな人間には元々向いていないのかもしれません。客単価4万円で16席が年中無休。単純計算で年間3億円近い売上。末恐ろしい鮨屋です。

サービスは過不足ない心地よい対応。名店の証ですね。気になったのはソムリエ。板前に言われたものを出すだけなんです。もっと議論や提案があればさらに面白いお店になるのにな。


このエントリーをはてなブックマークに追加 食べログ グルメブログランキング

関連記事
鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。

関連ランキング:寿司 | 永田町駅赤坂見附駅麹町駅