グルメブロガーの苦悩2017

2016年の1月に当ブログの記事を食べログに移行し、その後の記事もミラーリングするようにしてから急に有名になりました。
「ちょづいてんじゃねーよオマエのことなんて誰も知らねーよ」と思った貴方の感覚は正しくて、世間一般で言う「有名人」からは程遠い私ですが、飲み屋で隣のテーブルの全くの他人が私のことで議論していたり、電車で隣り合わせたOLが当ブログを読んでいたり、怪しげな業者から連絡が来るようになったりと、それなりに私の周囲は変化しつつあります。

「ブレイクするっていうのはバカに見つかるってことなんですよ」という有吉弘行の発言は実に興味深く、私の行動原理は何も変わっていないというのに、(バカかどうかはさておき)これまで接してこなかった様々な人種が私に接触を図るようになってきました。

すごく嫌な思いをすることも増えました。私がコントロールできない「何か」が襲ってくるという、ずっしりと重い恐怖感。少しずつ「何か」が失われていく寂寥感。記録の意味を込めて、現在の私の気持ちを整理しておきたいと思います。


<サクラの片棒>
「現在、特定のお店について食べログ レビューを書いていただける方を募集しております。もし、お受け頂けるということであれば、記事を書いていただきました後にささやかながらお礼金を差し上げております。

金額は、記事を書いていただきますことで報酬15000円、もし、書いていただきました記事によりまして、お店の点数が上がりました場合には、貢献度に応じまして最大10万円までの報酬をご用意いたします。」

こういう連絡が頻繁に来るようになりました。予見はしていましたが、やはり気持ちの良いものではありません。驚くべきは報酬の安さ。俺ってそんな貧乏臭い記事書いてるのかな、と暗い気持ちになってしまいます。

私見ですが、こういう誘いに乗るグルメブロガーは殆どいないと思います。高々数万円で自己のブランドを失墜させるはずがない。専業ライターはさておき、私のように収入源が別にある人間の書く記事は、基本的に信用できると考えて良いでしょう。


<上場企業ですら滅茶苦茶>
出版社などの品の良いスジからの執筆依頼などは理知的に応対しているのですが、春先に実に腹立たしい事件がありました。上場企業からのオファーだったので、まあ外すことはないだろうとタカを括っていた自分が甘かった。

平たく言うと、当該会社の運営するサイトに私の記事を転載(翻訳)させて欲しいとの依頼であり、顧問弁護士と相談した上で、
  • 私の記事を転載する際は、その都度、私から許諾を得ること
  • 加筆/修正/翻訳する際は、加筆/修正/翻訳後の記事を私に事前確認させること
  • 写真には転載元およびクレジットを入れること
  • 各記事の末尾に転載元およびクレジットを記すこと
  • 私から記事の削除要請があった場合は、直ちに応じること
  • 私に著作者人格権を行使させること
  • これらの条件を満たす契約書を交わすこと
という、社会人として当然の前提条件を求めました。

そこからの対応が異常に遅い。1本のメールのやりとりに数日間のリードタイムを要します。私はメールの返信などその日のうちに必ず済ませるのに、先方は何の音沙汰も無く平気で数日間放っておくのです。向こうからのお願いのくせにふざけた会社です。

次に、嘘をつく。一度カフェでの面会に応じた際に「Aさん、Bさんなどの著名な方にもご賛同頂いております」などと涼しい顔で言うクセに、私が実際に裏を取ると(グルメブロガーのコミュニティは狭い)、それらは全て真っ赤な嘘でした。

ショックでした。このバカたれとのやり取りはさておき、このような無茶苦茶な行状を上場企業が主導する時代。グラウカス・リサーチ・グループよろしく思いっきり空売りを仕掛けてから当該事実を実名で公表してやろうかとも考えましたが、面倒なのでやめました。君子危うきに近寄らず。冒頭の「バカに見つかる」の典型例です。


<飲食店の嫌われ者>
『「お代は結構ですから悪く書かないで下さい」とシェフに懇願された話』『3ヶ月前にトラブった例の店からの電話が鳴り止まない』などは極端な例ですが、飲食店が眉をひそめる存在であることは確かです。警戒された中で摂取する食事に味もへったくれもありません。この問題については、偽名で予約したり、同行者に予約を取ってもらうことで解決しつつあります。

「お店の中でタケマシュランって呼ばないでね」と同行者にお願いすることも多く、ちょづいてんじゃねーよオマエのことなんて誰も知らねーよ、という気持ちにさせてはいないかと申し訳ない気持ちで一杯なのですが、身バレした際の微妙な空気感は味わった者にしかわからない疾苦なので、念のための自衛なんだなと、温かい目で見守って下さい。

昔に比べて露悪的な表現も避けるようになりました。「タケマシュラン、最近守りに入ってつまんないよね」と評されるのは私としてはかなりきついのですが、あまりにステークホルダーが増えすぎて自由に形容することが難しくなってきたのは確かです。面白い深夜番組がゴールデンタイムに移動した途端に味気なくなるのと同じかもしれない。

ところで、「素人が偉そうにモノを言うな」「あいつは飲食店で働いたことが無いから何もわかってない」という批判を頂戴するのですが、客の99.9%は素人なんだからそれで良いじゃん。素人にあれこれ言われたくないなら、プロ限定の会員制にすればいい。

「あそこのシェフ、記事読んですごいムっとしてましたよ。結局タケマシュランが指摘した通りに料理変えてたけど」この感覚がとてもわからない。ムっとするぐらいならそのままの料理を貫き通せば良いのに。例えば私が「お前のブログは読むに値しないよね、時間のムダ」などと言われたとしたら、私はとてもヘコみ反省し改善するだけであり、怒りの感情なんて絶対沸かないのになあ。人はそれをプライドと呼ぶ。

いずれにせよ、飲食店側はネット上の口コミを過大評価しすぎだと思います。みんなそんなに気にしてないですよ。清潔で親切で美味しくてリーズナブルなお店であれば、黙っていても客は来るのにな。


<あたしの好きな店を悪く言わないで!>
これは女性にしか言われたことがないので、女性のOSにプリインストールされている感情なのかもしれませんが、「あたしの好きな店を悪く言わないで!」と、たまに言われ、ホームシックに浸ってしまいます。

私は世界で最も素晴らしいレストランはナリサワだと結論付けているのですが、決して万人ウケする料理ではない上に立派な値段を請求されるので、仮にナリサワを酷評する人がいたとしても「ああ、合わなかったんだな、気の毒に」程度にしか思いません。

私は「賛否両論おおいに結構じゃないですか」という思考回路なので、「あたしの好きな店を悪く言わないで!」という感覚を全く理解できず、「嫌なら読まなきゃいいじゃん」と見当違いな応対をしてしまい、その女の子からは見事に嫌われてしまいました。

話は変わるのですが、これまた女の子数名から「ゴハン行こ!飲んで食べて5,000円ぐらいのお店、おさえといて」と指示を受けたので、麻布十番の費用対効果に大変優れた店を予約し、味と価格ならびに雰囲気には大変にご満足頂けたようなのですが、帰り際、「どこ住んでるの?え?麻布十番!?よくもまあ自分の家の近くの店を指定するよね」と呆れられたことがありました。

これが八王子や浦和のお店であり、そこに私が住んでいてわざわざお越し頂いたのであれば、そう非難されても納得できるのですが、東京のど真ん中のお店を指定して、彼女たちからのリクエストを全て満たしたというのに、どうして彼女達の気分を害してしまったのか答えを導くことができず、頭を抱えてしまいました。

このように、異性からの批判については「何故怒られているのか理解できない」ということが多く、やはりこれは人間のOSレベルで異なる論点なのかもしれません。男女どちらが優れているという話ではなく、遺伝子レベルで違うこと。


<オススメの店は?>
「オススメの店は?」と聞かれると憂鬱になります。

「恵比寿で良いお店ある?」と聞かれたのでロブション、と即答すると「高すぎだよ。そうじゃないことぐらいわかるでしょ?」と怒られたことがあります。こちらは大真面目に答えているというのになぜ怒られるのか。

「あなたはズレてるのよ。意地悪しないで、もっと普通の店を挙げてよ」ズレていると評価している私に対して普通の店を聞きたがるキミが悪い、と返すのをグッっと堪え、じゃあレストラン間とか?と述べると「だからさあ、そういう気取った店じゃないんだよね」と、何故か私が非難されることになる。

「きちんとした和食屋でタバコ吸える店あるか?」これはひょっとしてギャグで言ってるのか?と表情を読み取ろうとすると、大真面目な顔だったりするのでリアクションに困る。

「ねえ、十番で良い店ない?ワインが飲めて、雰囲気があって、若い子があんまり来ない落ち着いたお店で、飲んで食べて5,000円以内」閉店後の俺のフレンチか。

「銀座の和食で飲んで食べて8,000円以内。個室で20人の宴会ができるとこ」私はぐるなびか。その価格帯でまともな和食店なんてないですよ、と必死の思いで回答すると、「お前はズレてるんだよ」と、また怒られました。

外食に係る議論の前提となる知識が欠落しており、知識が欠落していることにつき無自覚である方との議論はグルーミーでしかありません。

とは言え、自分のお気に入りの店を紹介し、「すごく良かった!さすが」と言われるのはそれはそれで嬉しいです。私もなるたけ的確な提案をしたいという構えはあるので、そのような質問をなさる際は、せめて目的・最寄り駅・予算・人数・同行者との関係ぐらいはお伝え頂ければ助かります。質問が具体的であればあるほど回答も具体的になる。まあこのあたりは常識的なビジネススキルに準じることでしょう。

「気になる人がいて、今度ディナーの約束があるんです。いい店ありますか?港区で、カウンターの店で、ふたりで飲んで食べて3万円までで、1回だけチューしたことある人とです!」ここまで開いた心で飛び込んでくれると、私も腕をまくるというものです。


<ヘンなオジサン>
会食に招待されることが増えました。ここは私の悪い所なのかもしれませんが、『友達でも無く仕事の付き合いも無いほぼ初対面からの招待なのだから、誘った側のオゴリでしょ?』という価値観が私の中にはあり、実際にご馳走になることが殆どです。ここ炎上ポイントかもしれません。

しかし、思いっきりワリカン請求してくるヘンなオジサンもたまにいます。興味の無い店を指定され、好みでない料理を口にし、自慢話を延々聞かされ、私のプライベートを根掘り葉掘り詮索され、「じゃ、今日は1万円でいいよ」。1万円もあれば大切な人に立派な花を贈ることができたのに…と自身の見る目の無さを悔やみます。へのへのもへじみたいな顔しやがってチクショウ!

「それは○○さん(私の名)がすごくお金持ちで社会的地位も高いと思われているからですよ」何それ超勝手じゃん。私はマックで朝の9時から朝の9時までバイトしてるかもしれないのに。そもそも相手の収入や地位に拠っておもてなしの態度をコロコロ変えるなど不届き千万。

一番酷かったエピソード。ふたまわり年上の自称経営者のオジサンから「タケマシュランの読者で、是非一度お食事をご一緒したい」とお誘い頂いたのですが、指定された店は新宿の雑居ビルの何でもない個室居酒屋。この人、本当に読者なのか?というモヤモヤ感。

嫌な予感というのは当たるもので、部屋に入ると、なぜか20歳そこそこの綺麗な女の子が座っています。「ああ、この子、よろしくね。ちょっとアレだから呼んだんだ」ちょっとアレとは何か。

まあそこは察しの良い私ですから、男芸者よろしく自称経営者のオジサンを軽やかに持ち上げ、「キミたち若いんだから何でも好きなもの食べて」と居酒屋メニューを勧められ、食べたくも無い唐揚げなどを必死で胃袋に詰め込みました。「○○ちゃん(私の名)はさぁ~」と、まるで私を部下のように扱うことについてとても気に障ったのをよく覚えています。

宴もたけなわ、彼女がお手洗いに立った際に自称経営者のオジサンが発した一言。「2万円ちょっとだから、1万円よろしくね。あと、領収書、オレもらっていい?」ショッキングピーポーマックス。開いた口が塞がりません。しかし気の弱い私はすぐにあきらめて、手切れ金にとっとと1万円を置き、「ちょっと次あるんで~」と店を飛び出し、慌てて着信拒否ですブロックです。この世の果てまでサヨウナラ。

後日談。偶然に先の女の子と会う機会があり、少しだけお茶したのですが、彼女が開口一番「○○さん(私の名)、あの自称経営者のオジサン、嫌いでしょ?」と話を振ってきます。

どどどどどーしてわかったんだい?と問うと「そんなの見ればわかりますよ。でも、私からすると、逆に好印象だったけどな、必死に彼のこと持ち上げてあげて」ウフフと小さく笑う彼女。

いやあ、実はカクカクシカジカで、自分よりふたまわりも年上の大して親しくもないオッサンが、向こうのお誘いのクセにクソ不味い居酒屋で平気でワリカンにしてきたことが本当にショックでさ、と、経緯の全てを彼女に伝えると「アハハ、○○さん、何もわかってないのね

どういうこと?と慌てて問う。「あの人、その手口で有名なの。美味しいものご馳走するからって若い女の子を集めてお食事会。で、毎回男性も連れてくるの。ワリカン要員のために」吐き気をもよおす私に構わず彼女は続ける。

「だから、彼が連れてくる男性は常にご新規さん。そりゃそうよね、偉そうにされて、部下のように扱われて、知らない女に奢らされて」と猫のような目をキョロキョロとする彼女。

「毎回、『ああ、今夜の被害者はこの人かあ』って申し訳なく思うんだけど、まあ、そこは許してね。私たちも、少しは嫌なことに耐えているんだから」少し首を傾げ、小さくウインク。嫌なこと?

「タクシーで妙にカラダをすり寄せて来る。あと、必ず一緒に写メ撮られて、その日のうちに確実にタグ付けされるの。その日のうちに、確実に。彼の娘さん、あたしと同い年だってのに、何考えてるんだか」



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