トゥ・ラ・ジョア/金山(愛知)


Tout la Joie。愛知のレストランの最高峰。食べログは4.51でトップ10入りしています。

当店が神格化された理由につき、何よりもまず予約の困難さが挙げられるでしょう。連絡先は非公開で一見さんはもちろんNG。常連に誘ってもらうしかこの店に行く道は無いのです。

では常連であればいつでも行けるのかというとそれも違う。毎年12月1日に1年分の予約を一斉に電話で受け付けるという斬新なシステムであるため、たとえ常連であったとしてもその日は仕事を休んで永遠に電話に向き合う必要があるのです。

予約時間10分前に到着。既にシェフやマダムがお店の前に出て待っていて下さいます。そう、一度仲間に加わってしまえば恐るべきホスピタリティを発揮してくれる。
食事も飲み物も全てお任せなのですが、泡は意表を突いてカリフォルニアのブランドブラン。個人的にはピノやムニエ寄りを好むし、そもそもやっぱ乾杯はシャンパーニュがいいなあ。
カニ酢。福井のカニです。カニの一番美味しい部分は第2節すなわち人間で言うところの上腕二頭筋らしいのですが、その部分のみを贅沢に集めた一皿。酢は単純な酢ではなく、イチゴとトマトを遠心分離機にかけ抽出したエキスで酸味を表現しています。カニ味噌の濃厚さも至高のアクセントとなっており、ババーンと先制パンチを喰らいました。
具沢山の熱々スープ。ダシは名古屋コーチンと宮崎牛、黒豚から取り、その配合はグルタミン酸の黄金比率に則っているとのこと。具には利休麩という肉のような食感の麩や、松露と呼ばれる大変に珍しいキノコを用いています。

なのですが、味わいは微妙。どぎつい旨味が粗野に、ひいては臭みまで感じられ、一口でウッとなってしまいました。利休麩の食感が興味深く松露も大変素晴らしい芳香を放っているというのに、肝心のスープが猛烈すぎて最終的には何を食べているのかわからなくなってしまいました。

それにしても、シェフは食材のプレゼンテーションが上手いですね。81ほど芝居じみてはいませんが、素材の素晴らしさや入手の難しさを熱っぽく語るという点で近いものを感じます。
ヒラメのムース。小倉の最高級タケノコにこれまた最高級のスターレッドキャビア。ウミツバメの巣に食用のプラチナと、名古屋の嫁入り道具のような一皿。ヒラメのムースには独特のもっちり感があり、大変に素晴らしいのですが、周りの装飾品の存在感が圧倒的すぎてレアルマドリードのような試合運びです。純粋にヒラメのムースだけでいいのに。
ホワイトアスパラガスのグラチネ。この皿に至っては一体何が主題なのか迷子になってしまいます。確かにホワイトアスパラガスはそこにあるのですが、すりおろしたトリュフを練りこんだジャガイモのペースト、スライスしたサマートリュフ、大量のバフンウニ。。。
極めつけは白トリュフの卵黄ソース。これ単体の香りを嗅ぐと当然にうっとりするのですが、
皿にかけてしまうと何がなんだかわからなくなってしまいます。名古屋料理ここに極まれり。味は今あなたが想像している通りでわかり易く美味しいのだけれど、さすがに食傷気味になってしまいました。
ロシアンリバーヴァレーのシャルドネは樽がバリバリで大好物。ハチミツ・バター・とにかく樽樽樽。香りだけで一発でカリフォルニアのシャルドネと理解できるヘヴィ級の味わいです。なるほど先のトリュフ尽くしを受け止めるに相応しい巨人。
海老エビえび、という料理。伊勢海老、オマールエビ、白えび。
さっきまで生きていたという伊勢海老。身がギッチリと詰まり完璧に美味しい。こんなに素晴らしい食材をスナック感覚でポイっと口に放り込んで良いものでしょうか。もっと恭しく食べてみたいこの素材を。
富山の白えびの昆布締め。この一画だけで30匹もあります。最中はうるち米のみを使用した最高品質で、録音したくなるような音をたてながらかぶりつきます。しかし肝心の白えびの味わいが繊細すぎる。トリュフ尽くしと重量級の白ワインですっかり舌が膨満感。もはや何も感じることができませんでした。
ブルーオマールのスープ。こちらはワンダフル。ブルーオマールの姿かたちは一切見当たらないのに、1滴口にするだけでそれと理解し、身を食べるよりも見事にオマールを感じさせる1杯。ロオジエで食べたブルーオマールよりも断然こっち。一口一口に重みがある最高の逸品です。

残念なのはワイン。先ほどと同じ白ワインでこのエビ料理たちを通すんですよね。オマールには悪くないのですが、伊勢海老や白えびには全然合いませんでした。もう少しワインにバリエーションを持たせるか、万能な白でまとめたほうが良いと感じました。
土佐赤牛と活鮑。肉は58度の低温でゆっくりと仕上げ、〆に焼き目をつけています。しかしこれまでの印象深い皿に比べると凡庸です。有り体に言うと中の上。アワビもポーションは立派ですが、味そのものに特長は無く食感を楽しむ程度。根セロリのペーストの香りが良く閃きを感じましたが、全体を包み込む濃いコンソメにウンザリし、ああまたでしたか、という食後感。
合わせる赤はサンテミリオンでモロ好み。ただし赤牛の肉質の方向性やコンソメ主体の味付けと組み合わせるには場違いな気がします。ワイン自体は大好きなものなので、さっさと肉を食べ終え、その後にワインをガブガブ飲むことにしました。
Mのサラダ。マダムのお父様のイニシャルを付した有機野菜のサラダなのですが、残念ながらどこまでも普通でした。せっかくのレストランなんだから、素人が手に入れることができないような野菜、すなわちブラスハジメレフェルヴェソンスのように多彩な野菜使いをして欲しかったです。
つけあわせ(?)にクコの実、プルーン、ブルーベリー、レーズン、こんにゃく(!)をボルドーの赤で煮込んで冷蔵庫で1ヶ月熟成させたもの。これも意図がわからない。本来はサラダのトッピングとして食べるものらしいのですが、私はサラダとは別に、ワインのツマミとして食べることに。
唐墨御飯。カリカリに焼き上げたカラスミをごはんに混ぜ込んで焼きおにぎりっぽくしたもの。大根おろしの餡を注ぎ込み、マグロ節をトッピングします。これまでの流れから、さぞや立派なカラスミが天の川のように登場するのかと期待していたのですが、品の良い加減で拍子抜け。いかん身体が高級食材に対して不感症になってきている。いずれにせよ印象不足感は否めません。
甘酒のソルベ。全く甘酒を感じることはできず、あ、イチゴ美味しい、という感じ。そうだ、抹茶のブリュレは王道で普通に美味しかったです。
コーヒーや紅茶ではなく、中国茶。私の舌がヘタレなため、旨味成分の継続的支出により味蕾が完全に麻痺してしまい、茶葉本来の繊細さを感じることができませんでした。フィナーレは渋みバリバリのエスプレッソのほうが良かったなあ。

食べログでの点数の高さ、ならびにシェフの妙技に心酔し切った口コミ情報からどんなカルト教団かと怖いもの見たさでしたが、覚悟していたほど独創的ではなく、素人の私でも理解が及ぶ範囲です。

高級食材の連発で、とりとめの無い旨味の波状攻撃はスペインあたりのUMAMI推しレストランでの既視感。外人が作った創作和食みたい。そういう意味では龍吟のほうが緩急があるので完成度は高いと思います。

実験的に、名古屋の隠れ家だけでなく東京の大箱で展開して欲しいですね。今は秘密結社めいた取り扱いと宗教的な香りが後押しして神聖視されているような気がしてならないんです。オープンソース化された際に第一線に居られるか?例えばキャーヴ・ドゥ・ギャマン・エ・ハナレなどは最先端の先端を走り続けられると思うのですぐにでも世界へ羽ばたいて欲しいのですが、当店はちょっと独りよがりでガラパゴス化しているような気がするんです。

もちろん古くからの顧客を最優先としたいという経営方針は極めて真っ当なのですが、いち外食業界ファン(?)としては、できるだけフラットにオープンに物事を捉えたいという欲求が強く強くあるのです。なんとかして東京に来て欲しいなあ。



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