そのレストランの名は81(エイティワン)。これは81のFacebookページにあった従業員の写真であり、決してLDHの所属タレントのものではない。
今回は1Fのウェイティングスペースではなく、3Fのギャラリーに通して頂けました。スタッフ紹介の写真がクールにプレゼンテーションされています。こういうセンスは仲間に誇りを持っているのが伝わってきてすごく好き。 各人「Loves」ということで好きなものをコーヒーや読書などと記載しているのですが、支配人だけ「Bubble Otachidai」と書かれておりクスリと笑う。
永島シェフの生い立ちや当店を出すまでの経緯などがまとめられたカードたち。台湾と日本のハーフで、「やんちゃな高校」時代を過ごした後、海上自衛隊で艦上の料理番となり、除隊後は湘南でサーフィンに明け暮れ、働いていたスペイン料理屋でエルブジという存在を知り、そのままスペインに飛んじゃったという、思わず映画化したくなるような人生を送ってらっしゃいます。
シェフの描いた絵25万円也。私は彼のことを世界を狙える人物だと信じて疑わないので、25万円は意外とリーズナブルなのではないか。
開場。チケットブースで支払いを済ませ、フランチャコルタを受け取り席に着きます。今回はポップコーンは無し。
なんかしらんが、オシボリが生乾きのまま放置した洗濯物のように臭かった。どうしてこうなった。
支配人による挨拶。Mr. Bubble Otachidai です。ほとんどが常連だったためか、前回よりも説明が簡略化されていました。それでもスピーチの締めくくりが「料理をお楽しみください」ではなく、「永島の哲学と、チーム81の世界観をお楽しみ下さい」なのがジーンと来る。
ソムリエによるワイン解説と開演の号砲。彼、めっちゃ肌キレイですツヤッツヤ。
まずはズワイガニ。まあ、ズワイガニ味です。盛り付けは凝っているものの、味わいに甲殻類特有の臭みが残り、そこらで売ってるカニ缶と大差なし。試験管の中はぬるいリンゴジュースなのですが、結構ズワイガニに合う。自宅でも試してみようっと。
シェフ登場。今夜のテーマはバレエのジゼルひいては冬の夜から朝にかけての夜明けとのこと。相変わらず形而上的な話が多く何を言ってるのかようわからん。まあこれは想像力の追いつかない客のせいである。
タマネギのピュレ。ほんの少し塩を加えただけの、大地の甘さを追求した一口。美味しいが自然と口をついて出てきます。
スペシャリテのカルボナーラの再構築。カダイフの上に丁寧に座らせた有精卵。
チーズのソースとともにぐちゃくちゃに混ぜ込んで頂きます。前回よりもチーズが控えめで、バランスが良くなりました。わかり易い味わいで素直に美味しい。もっと振り切って、ムガリッツのゲスト全員で鉄のすり鉢をガンガン叩いて混ぜ込むような演出があっても良いかもしれません。
合わせるワインはドンペリニョンの06。ワインの逞しい味わいがカルボナーラの濃さにマッチしてこれは良い取り合わせ。なのですが、前回は12人で少なくとも2本は開けていたのに、今回は12人で1本。ほんの数口しか楽しむことができませんでした。明らかに物足りない感を煽ってしまうので、これならいっそのことドンペリなんか外しちゃって、その分を食材費に回せばいいのになあ。でも当店にとってドンペリニョンはアイコンだから、やめるわけにはいかないのかなあ。
白子。和のスープと共に頂きます。間違いなく美味しいのですが、本質的な味わいは街の寿司屋の白子の茶碗蒸しのそれと同じです。
合わせるワインは甲州。勝沼のイケダワイナリー。青リンゴの香りがあって悪くないのですが、ドンペリの頑強な味わいと価格から一気に10分の1ぐらいまで下がるので、落差がすごすぎて納得し難いです。
鯛に昆布をまとわりつかせ、削りたての鰹節をふんだんにまぶした上で、シラスと共に頂きます。
お湯をかけただけなのに大きく広がるカツオの芳しい香り。味そのものもセンテンススプリング級の旨さでした。
63度に熱を通し、仕上げに焼き目を付けた肉。肩から腕にかかる部位でトンビやトウガラシなどと呼ばれます。ポップコーンのパウダーは意図がよくわかりませんでしたが、チョコレートのソースは一見ギョっとするけど、肉の滋味に絶妙な取り合わせでした。
カカオやエスプレッソの香りが漂い、甘みもたっぷりで抜群に美味しい。カリフォルニアのカベルネかなあ、と感じており、答えはナパのカベルネでした。大正解。まだまだテイスティング能力が衰えていないことを確認できてひと安心。
ちなみに「the D」というワインで、イニシャルがDの大変有名なワイナリーらしいのですが、非公表らしいです。イニシャルがDの蔵元で有名なところ、どこだろ。ドミナスぐらいしか思いつかない。
7種のキノコのリゾット。ビンに食材をしばらくのあいだ閉じ込めておき、キノコの香りを濃密に含んだ空気をゲストの目の前で一気に開花させる。味はそこらのキノコ雑炊と大差ないのですが、良い演出だと思いました。
栃木のメルロ。これは残念賞。深みはないのにタンニンだけは立派。キノコにもそぐわない方向性でした。
デザートの前に供される温かいホワイトチョコとほうじ茶で作られた飲み物。スポイトでコニャックをお好みに注ぎます。わかりやすい甘さと駆け引きの無い味わいで美味しかった。
薔薇風味の温かいスープにヴァニラのパンナコッタ。これは全然美味しくなかった。ナリサワでも思いましたが、単一のお皿にふたつの温度帯って、苦手なんですよね。どうも脳がついていかない。
小菓子のメレンゲは味は悪くないのですが、その名の通り小さすぎる。ロオジエのフィナーレまでは求めないけれど、もうちょっと甘いものを食べたいなあ。
当店はバリスタの存在を推す稀有なレストランで、その割に前回は思ったよりも普通のコーヒー味でガッカリだったのですが、今回のコチラは珠玉の1杯。ひと口ごとに味わいが変化し手品のよう。全体を通じて本日最も素晴らしい一品です。
バリスタがなぜこのような液体が完成するのかを理論的かつ丁寧に解説してくれるのですが、あまりに科学的な説明にシェフの「ちょ、ちょっとスミマセン。こいつヲタクで、何言ってるかわかんないっすよねホントすみません」と止めに入る掛け合いがよくできたコントのようでした。
相変わらず愉快で魅力的なレストランでした。ただ、「今夜のテーマはバレエのジゼルひいては冬の夜から朝にかけての夜明け」と大見得を切った割に、夜の醍醐味である闇は光に満ち溢れた終わりを迎える、という点を表現できていないなと残念に思いました。無論、普通のレストランに対してそんなことは求めはしませんが、当店は普通では無いので、私はここまで求めます。
料理も個別具体的には悪くはないのですが、全体を通して美味しいとは言うことができません。脊髄反射で理解できる単刀直入な皿ばかりで、食べ進めていくうちにメロディのようにフレーバーが移り変わっていく、という体験が当店には欠落しています。
今のところ連夜の満席状態で、差し当たっては是非とも祝杯をあげて欲しいのですが、現在のゲストはレストランに一家言ある浮気性の好事家だらけなんですよね。食後に数ヶ月先の予約を入れてしまい、顔ぶれが入れ替わらずサロンのような空気感が醸成されつつあるのが気になるところ。ご新規さんをオプトアウトした状態がいつまで継続できるのかが今後の論点となるでしょう。
いずれにせよ、シェフは才能というどこまでも行ける切符を持っているのは確かなので、今後も行儀良く暴れ続けて欲しいと思います。クラブを貸し切って、ひとり50,000円で300人のゲストを迎え入れるパーティーとかやって欲しいな。
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