トラットリア シチリアーナ・ドンチッチョ/渋谷

東京でシチリア料理、いや、イタリア料理と言えば真っ先に名があげられるのがこのお店。当店を卒業した方々が開いたお店、例えばアンビグラムやロッソシチリアなどはいずれも大成功。私の中では東京イタリアンのリクルート社のような位置づけです。
1年半ぶりにお会いした連れはいきなり「あたし、もう死にたい」と穏やかじゃない。どうしたんだい、と優しく聞くと「ゆうべね、すごおく飲んじゃってさ。23時に恵比寿を出て、そこから半蔵門に行こうと思ったのね。でも、気づいたら住吉にいるの。いけない、と思って慌てて乗り換えて、次に気づいたら笹塚なの。一体どうなってるの?と思ったら次は新宿。諦めて新宿からタクシーにしたわ。で、半蔵門に着いたのは2時前なワケ。もう、死にたい」。
お酒のストレスはお酒でしか解消できないよ、と穏和に諭し、イタリアの泡で始めます。シャルドネとイタリアのナントカっていう土着品種の混醸です。
前菜盛り合わせはメニューにはないのですが、前菜の良いところを適当に見繕ってもえるかな、とお願いすると快諾。そう、当店は料理の味もさることながら、快活で好意的なサービスも自慢なのです。
 ブッラータのカプレーゼ。ブッラータとはモツァレラに似たチーズにクリームが練りこまれたような食感のフレッシュチーズ。新鮮なチーズと濃厚なクリームが相俟って見事な調和を醸し出しています。we are the farmのアレにベクトルは同じ。
 シチリア風のカポナータ。はっきりとした濃い調理であり、野生的なナスの旨味とうまくバランスが取れています。お見事。
 イイダコはブロッコリーと共に。瑞々しいイイダコの香りがブロッコリーの繊維に入り込み後を引く美味しさ。
 これは、、、なんだっけな。肉か魚かすら失念しました。なぜならソースが圧倒的に印象深いから。エスプレッソの苦味とコクが不思議と全体を取りまとめ、さらには泡の消費を後押しします。すごく美味しいし、面白い。
 パンは普通でした。フォカッチャとかができたてだったら嬉しいのになあ。
 スミイカのリゾットが絶品。海の香りと松の実のコラボレーションが卓抜しておりこれを美味しくないという人間はいないのではなかろうか。芯の残し具合も絶妙で、食べ進めていくうちに食感がグラデーションしていき印象が少しづつ更に良い方向へと変化していく。
 本日の鮮魚、すなわちマダイはアクアパッツァとして調理して頂きました。
スタッフの方がひょいひょいと器用にバラして取り分けてくれる。魚介の旨味がスープとして溶け出し純真たる美味しさを感じさせてくれます。若干ホネが多く途方に暮れるのが難点。何度も何度も喉に鋭く突き刺さってきやがった。
腹いせにきれいサッパリ食べきりました。
 シチリアの、、、何だっけ?「イタリアワインはどうせ覚えることができない」と頭から決めてかかっているので良くないですね。しかし味わいは適度にボリュームがある一方でバランスも取れており、ブラインドで飲めばフランスワインとも捉えかねない繊細さ。
 メインはラム。キノコとニンニクも併せてドーン。ラムが素晴らしい。ケチケチした薄切りではなく、ブロックのベーコンにも迫るほどの肉厚さ。人間のOSには「肉は塊で食べるべし」とビルトインされていると私は考えているので、このような趣向は完璧な満足を導いてくれるのです。
連れのお誕生日祝いでもあったので、ドルチェも盛り合わせにして頂きました。レモンのタルトにチーズケーキ、ティラミス、塩ヴァニラのアイスクリームです。レモンのタルトが見かけ以上の軽快さで殊のほか美味。その他の甘味も高踏的で、こういう所から当店の底力を伺い知ることができますね。
エスプレッソの見本のようなエスプレッソで〆。ごちそうさまでした。

なるほど東京のグルメたちが手放しで褒め称えるだけある。料理もサービスも申し分なし。客層も食べこんだヤッピーのような雰囲気の方々がほとんどで、不思議な一体感が心地よい。何度でもお邪魔したい名店です。

ただ、ちょっと高いなあ。全くもってトラットリアの価格帯ではなく、そういう意味では中途半端でどこを目指しているのかはわかりづらいお店でもあります。もっと値段を上げてリストランテに振り切った場合は是非とも試してみたいし、飲んで食べて5,000円におさめる大衆食堂の方向性も見てみたい。

いずれにせよ、純粋な味や格だけでなく、哲学やサービスでも高単価は狙えるというケーススタディに相応しいお店ですね。そういう意味で、ヘンな例えかもしれませんが、イタリア料理界のスターバックス的印象が残りました。

来週は当店の卒業生が主であるロッソシチリアにお邪魔する予定。ドンチッチョのエスプリをどれ程受け継いでいるか楽しみです。味は間違いないだろうなあ。サービスが楽しみだなあ。サービスで客をその気にさせるって、やっぱすごいお店だなあ。


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十年近く愛読している本です。ホームパーティがあれば常にこの本に立ち返る。前菜からドルチェまで最大公約数的な技術が網羅されており、これをなぞれば体面は保てます。



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